「ちょっとすごい家ね」

客間に通されたアキと幸はおそらく一枚板で作られた重厚な座卓の前に座らされた。

「ちょっと、母さん静かにしてよね」

意外にも袴田自身がお茶を入れてくれた。

「ばあさんじゃないから、うまく入れられないのですが、辛抱してください」

袴田は座卓の前に座り、頭を下げた。

「実は、私もケンのことがよくわからず気になっていたのです。あんなことがあったばかりですし、根掘り葉掘りとは聞けず‥‥。冴子と‥‥私の娘なんですが、どんな暮らしをしていたのか、本心を言えば聞いてみたいという気持ちもあるんです」

「でもケンは自分のことは何も言わないんじゃないですか?」

「その通りです。あなたが知っているケンのことを教えてくれませんか?」

「私がケンから聞いた話でよければお話します」



アキは、この一年の間にケンから聞いた話を一つ一つゆっくりと話し出した。



ケンの家族が三人で暮らしていたときのこと。

両親が離婚して母と二人きりになったこと。

父の浮気が原因で離婚したと思い込んでいたのが、自分の母が不倫相手だったということ。

父には障害のある娘がいて、父はそれを受け入れられず、ケンの母の元へ走ったこと。

ケンにとって父はかけがえのない信頼できる肉親であるが、自分が父と暮らせるわけがないと思っていること。

自分は幸せになる資格がないと思い込んでいること。

障害のある男の子と友達になり、クラス発表でクラスをまとめあげ優勝したこと。

その優勝もつかの間、母の自殺を知ったこと。



アキは言葉を選びながら、袴田が理解しやすいように話を続けた。

袴田は時折、質問をはさみながらも冷静にアキの話を熱心に聞いていた。