「なんか、すごい。コウ、別世界の人になっちゃうの?」

「とんでもない、アキちゃん」

コウの母はアキの黄色い声を制した。

「だって考えてみて。やっぱりコウには無理よ」

「おばさん……」

アキはコウの母がひどく落ち込んでいることにようやく気づいた。

「そりゃあね、コウの得意なことを生かして、それが将来コウの職業としてつながるのなら、本当に願ってもないことなんだけど。でもね、いまだにパニックも起こすし。スカウトの人にはそういうたいへんさがわからないと思うの。仮にデビューできたとしても、結局使い回しされて、ぼろぼろになって捨てられてしまうんじゃないかって思うし」



コウの歌声が聞こえる。

あの日のようにピアノを弾きながら流れるボーイソプラノ。

この天使の歌声が土足で踏み込まれては困る。

そんな危険な目にコウを合わすわけにはいかない。



「おばさん……」

「ん?」

「あのね。私ね、やっぱりコウはずっとピアノを弾いていくべきだと思うの。大人になったらそれでお金をもらって生活していけたらコウも幸せだと思うの」

「それって、スカウトの人に託すってこと?」

「ううん、ちがうわ」

アキは顔を横に振る。