「おまえの友達に言ってやれ。自分の気持ちを押し殺しているだけじゃだめだって。大人は子供のためと思って、まちがった選択を決め付けているときがあるんだ。そんなときには子供の意見を聞いて目を覚ますことが必要なんだ」

父のくぼんだ大きな目が異様に光った。

「父さん?」

「俺が言ったって説得力もないだろうが、失って初めて気が付くものって結構あるんだぞ。アキにもその友達にも言いたいんだけど、失ってからじゃ間に合わないんだよ。だから失ってしまう前に、自分の気持ちは正直に伝えた方が絶対にいい」

「父さん‥‥。ありがとう、友達にそう言ってみる。本当に大切な友達だから、幸せになってもらいたいの」

「ごめんな。俺なんかがこんなこと言って‥‥。アキの気持ちなんか考えないで離婚しちゃったような親なのに」

父は空の紙コップを右手で力いっぱい握りつぶした。

「父さん、約束して」

父が顔をあげた。

「いつか、私が結婚するとき一緒にバージンロードを歩いてほしいんだ。でもそのとき父さんが落ちぶれてたら、私は父さんのこと呼べないから。だから絶対に立ち直って」

「アキ‥‥」

父はまたうつむいた。

両手で頭を抱えて小さな声を漏らした。

「約束するから‥‥。必ずおまえと歩くから‥‥」