「母さんは二十才で、父さんは三十才。十才も上だからうんと大人に見えたわ。気がついたら好きになっていたの」




母はこんなに口数が多い人だったのだろうか。

僕は母の話を遮る気にもなれず、黙って母の言葉に耳を傾けていた。




「その頃の母さんはまだ恋愛らしい恋愛をしたことがなくって」

母は昔を懐かしむかのように遠い目をする。

「仕事で父さんと接する時間が増えれば増えるほど、その気持ちが本物だって思うようになって」

「告白したの?」

「そうよ。とても勇気がいったけど、告白せずにはいられないくらい好きでたまらなかった」

母は、まるで少女のように頬を赤らめた。