「母さん、来てくれたんでしょ?」

「ああ、これからデートだって言ってた」

父はウインクして見せた。

「父さんの目を見て言ったの?」

「いいや、辞典のカタログを見ながらだけど」

「分かりやすい人だよね」

「まったく!」

「父さん、元気にしてた?」

アキは父を気遣ってファーストフードの店を指定した。

「私ダイエット中なの」と言って、アイスティーだけを注文する。

「父さんにも一応プライドあるんだからな。今日は父さんの心配なんてしないでくれよ」
父は冗談めかしてそう言ったが、アキには切ないせりふに聞こえた。

「学校はどうだ?」

「うん、いい友達ができたよ」

アキは父の気持ちが痛いほど分かっていた。

携帯電話も持てないほど困窮した生活。

それでも娘のために今日の日を待ち望んでいた父。

「友達はいいぞ、大切にしろよ」

「わかってるって」

アキが表情を曇らせたことを父は見逃さなかった。