アキは急いで支度をして、家を飛び出した。

自宅近くの私鉄の駅で、ちょうどホームに来た電車に飛び乗った。

十分ほどで池袋に着く。

ドアが開いて、ホームになだれ込んだ。

池袋の駅はこの時間、ものすごい人の数だ。

サラリーマン、若いカップル、パート帰りの主婦、買物に来た女性、大学生のグループ。

この人波を避けながら、アキは東武のエスカレーターにたどり着いた。

「父さん‥‥」

書店のあるフロアに到着すると、まっすぐに待ち合わせの英語コーナーに向かった。

そこには、懐かしい人が確かにいた。

「父さん!」

その人は顔をあげて、驚いたような顔をした。

そしてゆっくり立ち上がり、笑顔を見せた。

「ごめんね、父さん。こんなに遅れて」

時計の針は五時を少し過ぎていた。

「いいさ。ぜんぜん待った気がしてないよ」

父の頬には影があった。

すっきり、というより、げっそりと肉がそぎ落とされている。