「ケン、話があるの」



母は珍しく起きていた。

相変わらずパジャマで化粧もしていない状態だが、起きてきただけずい分ましだ。



「父さんのことなの」

母は迷うことなく切り出した。

「知ってるよ。出て行ったんだろう」

母はまっすぐに僕の目を見つめる。

「ケンも来年は中学生になるんだし、本当のことを話しておいたほうがいいと思って‥‥」

「本当のこと?」



母は話し始めた。

背筋を伸ばし毅然としたその姿は、僕が見たことのない母だった。



「母さんはね、大学生のときにアルバイトをしていたの。そこで先に社員として働いていたのが父さんなの」
 


僕が生まれるずっと前のこと。



僕は不思議な感覚で胸がいっぱいになった。