アキは休み時間になるとタンポポ学級へ駆け込んだ。

「沢村先生」

アキの凍りついた表情を一目見て沢村はアキの気持ちを理解していた。

「アキさん、昨日の夕方職員室にケン君のお父さんから電話がかかってきたの。芝山先生が応対して、ケン君のこれからのこと話し合ったんだけど、あちらのおじいさまの意志が固くてね。ケン君のことを傷つけたくない一心なんだと思うのだけど、アキさんも聞いたでしょ。それでね、電話を切る前に、私と替わってもらったの」

アキはひとすじの光も見逃すまいと沢村の目をじっと見続けていた。

「あなたとの約束漸く果たせたわ。私、お父さんにあなたのこと話したの。今回のクラス発表でどんなにあなたとケン君が友情を深めたかを。そしてケン君にとってもアキさんが大切な存在であることを」

「先生‥‥」

「お父さんはわかってくださったわ。でもどうも複雑な事情があるみたいで、お父さんが
勝手にケン君を連れてくることはどうしてもできないそうなの。だから、電話番号を教えてくださったわ。ケン君が今いるおじいさんの家の電話番号を」

沢村は電話番号の書かれた紙切れをアキの手に握らせた。