「それが‥‥」

芝山が口を濁した。

「残念な話なんだが、ケンはこれからおじいさんのところで暮らすことに決まった。だから転校をせざるをえない」

教室がしんと静まり返った。

芝山のせりふの後にいやな間があった。

「ケンは家の都合でここには戻らずに、新しい学校に転校することになった」

ここには戻らない‥‥?

アキは自分の足ががくがく震えるのがわかった。

「だって、荷物とかあるのに‥‥」

誰かが思わず口走った。



「お父さんが転校の手続きや、荷物などの処理をすることになっている」

芝山は事務的に淡々と続ける。

「どうして、俺たちに会わないで、いなくなっちゃうんだよ!」

ユウキが机をたたいた。

「俺はケンと直接話をしていないんだが、ケンのお父さんが言うには、ケンをお母さんの亡くなったところに来させたくないという気持ちが、おじいさんおばあさんに強いらしい。ケンを傷つけたくないという気持ちだろう」

誰も何も言わなかった。

芝山の声だけが教室に響く。

「おまえたちは納得いかないだろう。クラス発表の喜びも十分分かち合えないまま、あんなことになってしまって、その上、おまえたちはケンに会うこともできず、ケンがいなくなってしまうなんて」

芝山があえて口に出さずとも、みんなケンの事情を痛いほどわかっていた。

しかしアキは納得がいかなかった。

沢村先生がなんとかしてくれるという言葉を信じてじっと待っていたが、だまされたような気がしていた。