「ケン、ちょっと来なさい」

祖父がケンを呼んだ。

ケンは祖父の言われるままに、座布団に腰を下ろした。

「おまえ、これからどうするか、考えているのか」

祖父は落ち着かなさそうに、タバコの箱をかたかた触っていた。

「いえ、まだ‥‥」

とっさに嘘をついた。

本当はどこも行き場がなくて困惑しきっていたのだ。

「おまえさえよければの話なんだが‥‥。ばあさんとも話したんだが、この家で私たちと暮らさないか」

祖父は目を伏せながら、提案した。

松の木の枝に積もった雪が音をたてて崩れ落ちた。

張り詰めた空気が一瞬破れた。

「僕は‥‥まだ、どうしたらいいか‥‥」

祖父は僕に断られることを心配していたのだろう。

はっきり否定されなかったことで安心しているようだった。

「そうだろう。いいんだ。大切なことだから、ゆっくり考えて決めたらいい。わしらはおまえの気持ちがいちばん大切だと考えているからな」

祖父の眼差しは優しさに満ちていた。

母を勘当した人と同一人物とは思えなかった。