「この曲、あの子好きでねえ。ようく歌っとった。この曲聞くとなんでもうまくいくような気がするってね。失恋したときも、試験で失敗したときも、友達とけんかしたときも、この曲聞けば元気になるってね。だからよーく聞いとった」

ケンは、あのクラス発表の日、死んでいたはずの母がなぜあの場にいたかわかったような気がした。

そして後悔した。

この曲をもっと早くから母に聞かせていたら、母は死を選ばなかったかもしれない。

母は元気になろう、がんばろうって思えたかもしれない。

「ケンちゃん?」

ケンは声を殺して泣いていた。

「どうした?お母さんのこと思い出したかね?」

「おばあちゃん‥‥僕、お母さんのこと助けられたかもしれないのに‥‥。僕、自分のことしか考えていなくて、母さんのことなんにも考えていなかったから‥‥。ごめんね、おばあちゃん。おばあちゃんの大事な子どもを死なせちゃって‥‥」

「ケンちゃん‥‥。なに言ってるの。おばあちゃんは冴子のこと怒ってるよ。あん子、死んでまでケンちゃんに心配かけて。本当に困った子だよ。ねえ」

祖母は僕のとなりに腰を下ろして、ハンカチで涙を拭いてくれた。

「ケンちゃんはなんにも心配しなくていいんだよ」

母が過ごした部屋で、今僕と祖母が手を取り合っている。

不思議なめぐりあわせだ。

「あの子、自分で私らに謝れないからって、ケンちゃんを寄こしたのかねえ」

祖母は目に涙をためたまま笑った顔をしてみせた。



雪はやむことがなかった。

母の葬儀の日以来、しんしんと降り続いている。

窓を開けると空気の冷たさに、頬がこわばる。