「その後、君とも別れ、そして最後は子どもを残して勝手に死んでしまった。最後の最後はすじも通さんで、自分の気持ちだけ押し通しよった」

祖父は、床に手をついてうずくまった。

「まったく馬鹿な娘じゃい。馬鹿な娘じゃい‥‥」



雪の中、葬儀は執り行われた。

親戚と冴子の友人たちだけを招いたこじんまりとした葬儀だった。

初めて会う人たちは決まってこう口にした。

「本当に冴子にそっくりだ」

ケンはその都度会釈をして返した。



ケンは確かに感じていた。

この家に入った途端、母は母でなくなってしまった。

母は娘になってしまった。

僕は母を失った悲しみよりも、十三年もの間、娘の身を案じながらも最後は裏切られてしまった老夫婦の悲しみの方がつらかった。

祖父母のもとに母を帰してやれたのが唯一救われたことだ。

初七日まで僕は祖父母の家で過ごすことにした。

父には新しい家族がいるし仕事もある。

結局のところ僕には行き場がない。