「ケン、おまえのピアノ大好きだよ。本当にいい音だ」



父は僕のピアノを喜んで聴いてくれる。

僕のことを思ってピアノをほめてくれているのではない。

父はただ純粋に音楽が好きなのだ。



しかし、この日は様子が違っていた。


父は椅子に深く腰掛け、背もたれに体を委ねていた。

まるで全神経を集中させて聞いているようだった。

実際、父は演奏の間じゅう、ずっと目を閉じて祈るように手を胸のところで組んでいた。

そして、父は僕の演奏が終わったあとも、その姿勢を崩すことなくしばらくじっとしていた。



「父さん?」

僕はこわごわと声をかけた。