その後、冴子はすぐさま田舎に帰り、実家の両親に侘びを入れた。

父の憤り方といったら尋常ではなかった。

一人娘が不倫の末妊娠し、大学も中退。

ひっぱたかれても当然だろう。



「その島野という男はどうするつもりなんだ」



二人で逃げるなんて、口が裂けても言えない。

本当なら、実家に足を踏み入れることすらできたことではなかった。

しかし、冴子のことを信じて愛してくれた両親に対して、何も言わず姿をくらますなんてことは、それだけはできなかった。

せめて失踪する前に、その理由だけを両親に伝えることが、今までの恩に報いるために 冴子にできる最低限の誠意だろう。



冴子は三つ指をついて頭を下げた。

父の顔を見る勇気はなかった。

「お父さん、許してください‥‥」

冴子は消え入りそうな声で許しを請う。