計算的に、6ヶ月に入ったと思われる頃に、島野に電話をかけた。

「ひさしぶり、元気にしていた?」

島野は冴子が堕胎したと信じて疑わなかった。

次の瞬間まで。



「島野さん、私島野さんの赤ちゃんを産みたいんです」



電話の向こうで、島野は明らかに狼狽していた。

息遣いが荒く、会話がうまくかみ合わない。

「冴子ちゃん、何言ってるの?」

「だから、私ずっと一人でこの子の命を守ってきたんです」

「病院には行ったの?」




島野は産婦人科に付き添ってくれると言って、路地の裏に入ったいかにも後ろめたそうな若い女性を専門に診ているという病院に二人で行った。

島野がまだ中絶をさせたいと思っていることがよくわかった。

でももう後には引けない。



「こんなになるまで病院に行かなかったんですか?」

メガネをかけた太った医師が呆れた顔で言った。

「あの、今何ヶ月になるんですか?」

島野がおずおずと聞いた。

「6ヶ月に入った頃でしょうね。もうおなかだって出てるでしょう。気づかなかったなんて言い訳は誰も信じませんよ。それと中絶は勧めません。母体が危険ですからね」

この医院ではよくあることなのだろう。

医師は淡々と所見を述べて、あとは看護師に任せた。