「おばさん、嫌なこと聞いていいですか?」

アキがおずおずと声を上げた。

「気を悪くしないでくださいね」

アキは心配そうにコウの母親の顔を見つめる。

「おばさんは、コウくんの障害がなかったらって思ったことありますか?」

コウの母親は一瞬驚いたようだったが、すぐににっこりと笑った。

「ええ、もちろん何度も思ったわ。でもそれは昔のこと」

コウの母はしっかりと二人の顔を見つめる。

「今はね、もしコウに障害がなかったら、きっとそれはコウじゃない別の子だわ。そう思うの。コウは障害があるない別にして、コウそのものがコウなの」

「おばさんは将来のこととか不安にならないんですか?」

「そうね、不安にならないって言ったら嘘だけど。でも、たぶんあなたたちが思うほど私は不安に感じていないわ」

神々しいと思った。

もしもマリア様が本当にいたとしたら、それはコウの母親のようだったんじゃないか。

気高く、嘘偽りがなく、穏やかで強い。

ケンはコウの母親の言葉に聞き入っていた。

「同じように、みんなが思うほど、私は不幸じゃないの。私の人生ってなかなかよねって最近よく思うわ。今の人生じゃなかったら、ケンくんやアキちゃんとこんな深い話はできなかったでしょうし、私自身がもっとつまらないちっぽけな人間だったと思うの。強がっているわけじゃなくてね、これが正直な私の思い」