一度…ただ一度、父親に付いて、仕事関係の食事会に行ったことがあった。

部屋に入ると、少し冷たい感じの男の人と、綺麗な男の子。

あまりに整った容姿に目を奪われた。

(綺麗…)

でも、名前が思い出せない。

「はじめまして…桐生院 桜華です」

いきなり、桜華が言った。

それが耳をくすぐる。

「ずっと…あの時から?」

「一目惚れだったんだ」

少し照れたように微笑んだ。

「あの時、部屋に入ってきた雛子が綺麗で…同じ年でこんなに人形のように綺麗な子がいるんだって…ずっと、頭から離れなかった」

照れたように、切なそうに雛子を見つめる。

雛子は膝を付いて起き上がり、真っ直ぐに桜華を見た。

「あの時…部屋に入って、座っていた男の子…桜華だったの…?」

桜華の頬に触れた。

「私…忘れてて…」

知らない内に涙が出ている。

「私も…桜華を綺麗だと…思っていたの…」

ソッと、雛子からキスをした。

『忘れててゴメンね』

と。