[お兄ちゃん、お兄ちゃん。

お父さんとお母さんはどこに行ったの?]

[あゆみ、聞くんだよ。
あの2人はもういないんだ。

天使になったんだよ]

[え?天使?]

[あぁ。そうだよ。俺等の天使になったんだ]

お兄ちゃん。
あの時の私はまだ、5歳で。
ずっと親戚の家で暮らしていたよね。

5歳になるまで、ずっと。
両親の顔なんて見ていない。
生まれた時なんて、覚えていないし。

お兄ちゃんとは、4歳離れている。

それで、お兄ちゃんが高校生になって私と2人で暮らすようになった。
毎日必死に生きた。

お金がないなら、その日の夕食は抜きとか当たり前。
学校に通うお金なんてなくて。
ようやく私が16歳になったとき。

お兄ちゃんはいつもより、真剣な顔をしていた。

[あゆみ、話があるんだ]

[話?]

[お前はお嫁に行ってくれ]

[お嫁?]

[ひき取ってくれる人がいるんだ]

[分かったよ、お兄ちゃん]