霧嶋 亮(きりしま あきら)が少女の片割れと再会したのは、ほんの偶然であった。
小学3年生の春。
少年は生まれ落ちた町から離れ、遠い北の地へと引っ越した。理由は両親の離婚で、妻子に無関心で威圧的なオーラを放つ父親ではなく、優しい母の故郷に行くことに異論はなかった。仲良くしていた級友と離れることは寂しかったが、まだ思考が幼かったこともあり何事もなく母の故郷へ旅立った。
そして現在。青年は帰ってきた。
幼い頃走り回って遊んだ銀杏並木の通り、駄菓子屋のおばさんは変わらず明るく大らかで、空き地だった場所には新設されたアパートが建っている。
変わってしまった風景と、変わらないものに対する懐かしさが亮の胸にこみ上げた。
「はぁー…」
先日亡くなった母は、この町が好きだったのだろうか。
亮が帰ってきたのは他でもなく、母が亡くなったからだ。
母の故郷に戻って数ヶ月が経った頃に祖父が亡くなり、後を追うように祖母が亡くなった。祖父母はいわゆる駆け落ちというやつで、もう母の故郷に頼れる親戚はいなくなった。母は空元気で必死に働き、亮を養ってくれていたのだが、無理が祟って病に倒れた。
これまでの過去を胸の中で振り返っていると、亮の前方からどこか懐かしい姿が見えた。
「皆野…?」