現社長である父親の望みなら、北見さんもそれに応えるに違いない。


北見さんは、もう戻らない。


肩から力が抜ける思いだった。


すっかり見えなくなった沙織さんの車を見送ったまま、呆然と立ちつくしていると


「薫子さん?」


後ろから声を掛けてきたのは麻紀さんだった。


その隣にいた男性を思わず二度見。


「えっ……」


言葉を失くして口をパクパクさせる私に、麻紀さんは「驚いた?」と笑った。


驚いて当然。
だって、麻紀さんが連れていたのは、あの吉池さんだったのだから。