「涼夜さんには、薫子さんは元気にしてたって言っておくわ」
「北見さんは、ここへは戻らないんでしょうか……」
「……涼夜さんは父の意向通り、常盤ハウジングを継ぐんじゃないかしら」
「えっ……」
そうだとしたら、北見さんはここへは戻らない。
一緒にいてくれると言ってくれたあの夜と、状況が変わってしまったんだ。
「涼夜さんに、何か伝えることはある?」
マンション前に停めていた真っ赤なスポーツタイプの高級車の前で、沙織さんが振り返った。
「……いえ、大丈夫です」
車に乗り込んだ沙織さんは窓からもう一度手を振ると、エンジンをふかして車を発進させたのだった。
北見さんが、常盤ハウジングの社長に……。