「望月さんに私のことは、」

「もちろん話していないわよ。早川さんの立つ瀬がなくなっちゃうじゃない」


……よかった。

沙織さんが恋人の望月さんに私の正体を明かしてしまったら、早川さんに申し訳が立たない。

いただいた報酬だって返還しなきゃならなくなる。


「私はそんなに野暮な女じゃないわ」

「ありがとうございます」


急いでコーヒーを用意して、テーブルへと出す。


沙織さんは一体、何をしにここへ来たんだろう。


不思議に思いながらトレーを脇に置いて、沙織さんの向かいに座った。


「何もできないお嬢様の薫子さんが、どんな事務所を開いているのか知りたかったの」


キツイ一言なのに、沙織さんの口調に悪意は込められていない。