「か、薫子です」

「おぉ、そうかそうか。まぁ座りなさい」


荒野社長というお客は私に隣へ座るよう、大きな手をヒラリとかざしたのだった。


会話にはうまく入れなくて、麻紀さんの見よう見真似でお客さんのお酒を作る。


怪しい人は……?


たまに視線を店内に流してみるけれど、麻紀さんの言うような人は、ここでもやっぱり見当たらなかった。


北見さんはどうしただろう。

まだ中には入ってきていないみたいだけど……。


そう思いつつ店内を見回したときだった。


ウエイターらしき男性に伴われて、北見さんが入店してきた。


私たちのテーブルの横を通り過ぎるときに、一瞬だけ目が合う。