ドキッ、と心臓が飛び跳ねた。





 彼女は入院している人が身に付ける薄い青色の病衣を着用している。



 それ以外はあのデートの日とさほど変わらない、左耳上に束ねた輝く水色の髪に、透き通る湖のような瞳だ。




「お、おはよう生嶋さん」




 昨日は生嶋さんの両親がいたけれど、今日はぼくと生嶋さんの二人だけ。



 ――――意識すればするほど蟻()地獄のように、緊張の渦から逃れられなくなってしまう。




 
 分かってる。そんな展開になるはずないって。



 でも、心のどこかで期待してしまうのは、本当、なんでだろ。





 ぼくは慣れた動作で部屋の隅から、あのお気に入りの椅子を引っ張り出してくると、ベッドの横に持ってきてその上に座った。




 近づいて、改めて彼女を見ると痩せた身体部位が嫌というほど目につく。




 それを見ると、やはり迫ってきているそれは絶対なのだと実感させられる。





 病室は生嶋さんだけでなく、他の人も共同で使っているのでしんとすることはあんまりないのかと思っていたけど、こんな朝っぱらからお見舞いに来る人はぼく以外にいなかったようだ。