美味しそうな匂いが辺りに立ち込めてきた。狭いアパートはあっという間に餃子に『汚染』された。

「さぁ、もう少しで出来上がるわ。」
「もう少しってどれくらい?」
「ざっと50分?」

もう少しかよ!

その頃餃子は危うく焦げる所だった。どうせ食べてもらうなら美味しいほうがいい。すでに羽根の部分は真っ黒だった。

春子はご飯を炊く準備をした。本当はもっと早くにしたかったのだが、煙騒動によって炊くのが遅くなってしまった。

海斗は風呂にお湯を張った。どうせやることなどない。だったら先に風呂に入ってしまおう。一緒に入ってそのまま、甘い行為に……というのは最近全くない。そんなことがあったのは初めの一年間だけだ。

――言ってしまえば海斗は欲求不満だったのだ。

(今日こそは、春子に自分がしたいことを言ってやろう。いや、有無を言わせずベッドにつかせてしまえばこっちのものだ。そうさ、それがいい)


   ***

あの甘い吐息。春子に囁く。
「どうだ、気持ちいいだろう?」
春子は喘ぐ。その気持ちよさに身を委ねて……。
「海斗、入れて……。」

   ***


という妄想もすぐになくなった。大きいとは言えないテーブルに、餃子がでんとおかれたからだ。

海斗は残念がった。

(ちぇっ。あと少しだったのに。餃子め、恨むぞ……。)

餃子はその思いに答えるかのようにプスンと音を出した。てっきり海斗が啄んだ音だと勘違いした春子は怒った。

「こら海斗!! 勝手に食べないで!!」

あらぬことで怒られた海斗は小さくシュンとなった。