……この家は結界の中にある。

だから『何か』なんて居ない。 居るのは私と八峠さんだけだ。


大丈夫。 2階に行こう。

2階に行って、『やっぱり八峠さんだった』って笑って言おう。




「……大丈夫」




口ではそう言いながらも、不安と恐怖は大きくなっていく。

それでも2階に行くしかない。

『やっぱり八峠さんだった』と言うためには、2階に行って確かめるしかないんだ。




「……よしっ、行こう!!」




意を決して、リビングを出て2階へ……──。





「何やってんだお前?」

「うわぁっ!? え、なっ……八峠さん!? なんでここにっ!?」

「いや、普通にトイレ行って戻ってきたところですが?」




──……リビングのドアを開けた直後に、八峠さんとバッタリ出くわした。

私の声に一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、それでも彼は『意味がわからない』と言った顔だ。




「な、なんでっ……だって今っ……!!」

「は?」

「2階ッ……2階から音がしたんデスヨッ!?」


「あぁうん、したね。 誰か来たんじゃねぇの?」




なんでそんなに呑気なんだっ!! ……と思ったし、実際に言おうとも思った。

でも、八峠さんの表情は、呑気とは全然違ったものだった。



ジッ……と天井を見つめる八峠さんはかなり集中していたし、その目は本気そのものだ。

そんな彼が、次の瞬間にはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。




「いいね、面白い」

「お、面白い……?」

「俺に気付かれることなくこの距離まで来た奴が居るんだぞ? 面白いじゃねーか。
そしてソイツは今 家の中に居る。 結界が張ってあるこの家の中に、だ」