まさか、そんな呪いの言葉を吐かれているなんて知らない沙耶は、高級ブランドショップが立ち並ぶ街を、がむしゃらに突っ走っていた。
石垣の髪の色が、栗色だったことに、出て行く直前に気付いた。
―あんな最低野郎の髪の色が、一番良かった頃の記憶とリンクするなんて、吐き気がする!
「あー!!!腹立つ!!!!」
唯一の思い出を穢されたような気がして、沙耶は力任せに街路樹の幹を蹴り飛ばした。
ちょうど出勤時間のサラリーマン達が、驚いてちらちらと見て行く。
高圧的な物言い、人を見下したような目、その何もかもが沙耶の神経を逆撫でする。
―大っ嫌い。
「あんな奴に、私は絶対屈しない!」
顎に、触れられた感触が残っていて、ごしごしと痛いほど擦りながら、自分自身に宣言した。
「…何が天下の石垣よ……」
―あいつが天を行くのなら、私は地を這ってやる。
どこからか金木犀香る、秋晴れの朝の出来事だった。