―母親が死んだ時。



母を前に。


諒の隣で、楓はぼろぼろと泣いた。


力はなくなったけれど、まだ温もりのあるその手を放さずに、ずっと握り締めて。



それを見ながら諒はジレンマを感じていた。


自分もそうしたいのに、できないこと。

隣でそれをいとも簡単にやってのけている存在が居ること。



棺に花を容れる時にも。




楓は離れようとしなかった。



諒はそれを遠くで見ていた。




百合の花を容れてしまえば、さよならだから。

自分の持っている花を容れなかった。



でも結局運ばれて行ってしまって。




『なんでお前が僕のお母さんを独り占めするんだよ。』






楓にそう言って怒った。



頭では理解していた。



単なる八つ当たりだってこと。




『お前のせいで、お母さんは居なくなったんだ。』





―楓。




『お前なんか、居なきゃ良いのに。』





あの時の記憶を、今、どう感じてる?




きっと、二度、傷つけた。



きっと、二度、悔やんだ。







―俺が楓の立場だったら、やっぱり。



今のお前と同じ事をしたと思うよ。





表裏一体だからこそ。




剥がされた痛みは壮絶な仕方で―




お前を襲ったんだろうから。