「なんのつもりだ?」
全員が出払い、空になった会議室。
諒は、部屋から出て行こうとしていた楓を後ろから呼び止めた。
「答えろ」
立ち止まったものの、言葉を発しない楓に、諒は苛立ちながら促す。
「…まさか飼い犬に手を噛まれた、なんて思ってるわけじゃないですよね?」
「何言って…」
振り返って諒を見つめる楓の目は、いつものように笑ってはいなかった。
「貴方は私を信用して等居なかったでしょう?驚くことなんかないんじゃないですか?」
淡々とした、まるで当然の事が起きたのだというような物言いに、諒は楓の胸倉を掴んだ。
「ふざけるなっ。お前がしたことは乗っ取りだぞ。裏切り行為だ。」
「―だから、今更驚くことないでしょう。」
楓は冷たく言い放ち、諒を睨め付ける。
「俺の祖父の時代から受けてきた恩を仇で返すのか?」
「―恩?」
ここにきて初めて、楓は笑った。
「思い上がるのも大概にしてください。まるで自分達が上に立つ者かのように。」
「坂月―」
諒の力が緩んだ瞬間を楓は見逃さず。
「良いじゃないですか。貴方は沢山持っている。」
その腕を振り払う。
そして、背を向けると。
「生まれた時から―」
今度こそ、会議室を出て行った。