金木犀香る頃。


母親の容態が芳しくなくなって。


諒は母方の実家で暫く過ごすことになった。



そこで出逢ったのが楓だった。


元々親戚の集まりで何度か顔を合わせてはいたが、父親の陰に始終隠れているような楓との接点は、無いに等しかった。


楓は、母の義姉の弟に当たるのだが―つまり実兄の妻の弟―姉と弟と言うには違和感を覚える位、それこそ親子程の年の差があった。


無論、父親はかなり年老いていて、手を引いて歩く姿は祖父と孫。


楓が中等部の頃、すい臓癌を患い、他界した。




家から離れ、遊ぶ友達も居なくなった諒は、最初、そんな同い年の楓に声を掛けた。


だが、引っ込み思案で人見知り、波立たない湖面を一日でも眺めていられるような性格の楓は、諒にとって宇宙人のようなものだった。





―つまんない。



母親の体力面を考えて、共に過ごせる時間は僅か。


その他の時間は、学校を除けば、だだっ広い敷地を歩き回る位しか潰せる術がなかった。


ゲームの類はとっくに飽きていたし、サッカーや野球をやってくれるような心許せる使用人は居ない。



その内散策も嫌になって、使用人の目を盗んで敷地外に進出することにした。



当時7歳だった諒は、決まりを破る、という事に罪悪感を上回る興奮を覚えた。




しかし。



一度出てみると、外の世界は案外呆気なくて。



単調で平坦な道がただ続いているだけだった。