男の癖に、シンデレラの本を持っていたのは。


病気がちな母親が、唯一読んでくれた話だったから。






毎日継母と義姉達に苛め抜かれながらも健気に生きるシンデレラ。




魔法にかけられてお城の舞踏会に向かった彼女は、そこで王子と恋に落ちる。



魔法使いと約束した12時の鐘が鳴り、急いで立ち去る際、硝子の靴を落としてしまった彼女は、後日それを手がかりに捜しに来た王子と再会し結婚する。




―世界中にシンデレラにだけしか合わない靴なんて存在しないだろ。




隣で熱心に聞く楓の事も、話の内容も、心底馬鹿にしていた。





一瞬で恋に落ち、王子が迎えに来るのをただ待っているだけのシンデレラ。


玉の輿に乗って、さぞかし安泰に暮らしたに違いない。


王子も王子だ、見かけだけに騙されやがって。


相手がどんな人間かもわからないのに。


苛め抜かれた人間なんか、絶対良い性格になるわけがない。


出て行くこともせずに、そこで小動物と戯れながら清く正しく笑って生活できるなんて、どんな神経の持ち主なんだ。逆に怖い。




―そんな女、絶対存在しない。




諒自身、かなり反発したい内容だった。



初等部の女共ですら、今から将来どの男が安全牌かハイエナのように目を光らせている。



それでも。



母との少ない記憶に繋がるそれは、自分の中で特別なものにならざるを得なかった。