「まさか…」



「―姉ちゃん?」



廊下の途中で、急に立ち止まった沙耶に、駿が訝しげな顔をする。




坂月はどんな意図があって、沙耶にあんなことを言ったのか。






「ごめん、なんでもない。。。」





「なんだよぉ、やめてくれよ、そういうの。よくわかんねぇけどビビる。」





駿はがっくりと脱力して、また歩き始めた。


沙耶もそれに倣う。




渦巻くのは、振り払いたい思考。


ぐちゃぐちゃでこんがらがって、解こうとすればするほど絡みついてくる糸なのに。



その中で何故か、妙にはっきりと浮き上がってくる、いつかの忠告。





『君のボスは、諒だからね。その他の人間を余り信用しない方がいい。』



『たとえ、どんなに近しい人間でもね。』






―いやいや、もう関係ないから!




沙耶は実際に首を強く振って、考えることを止めた。












止みそうで止まない雨は、まだ降る。





影でひっそりと用意周到に張り巡らされていた、罠。





予想外の雨に打たれたせいで、水を含んでぽたりと落ちた。




それは静かに土に浸(し)みて―。





やがて毒を孕(はら)む。





敵も味方も、




全てを巻き込んで。