小雨降る午後―。
でっぷりとした腹を擦りながら、佐伯は目の前に居るスーツ姿の男を見た。
「―それで、上手く行きそうなのか?」
「はい、順調に行っております。」
淡々とした口調で、姿勢を崩すことなく答えた男は、無表情でも笑っているように見える。
佐伯はそんな男の事をいつも薄気味悪く感じていた。
「…なら、いい。まぁ、アレはお前の事を少しも疑ってなんかおらんのだろう。当たり前だが…」
何を考えているのかわからない瞳から目を逸らし、湯呑みに手を伸ばすと、男の苦笑が聞こえる。
「―それは、どうでしょうか。」
「……まさか、感づかれて…」
「いえ、それはありません。今は別の事に気を取られているようですから。」
意外な情報に佐伯は顔を上げた。
「別の事?」
「ええ。珍しいでしょう?何があっても今まで隙がなかったものですから、却って好都合です。」
「父親のことではなく?」
「まさか。」
そんなことはわかっていたが、敢えて訊かずにはいられなかった。
母親の命日に呼んでやっても顔色を変えず、父親の危篤を聞いた時ですら眉一つ動かさなかったあの男が、一体何に気を取られるというのだ。
「まぁ、諒も人の子だってことでしょうか。では、失礼致します。」
言葉を濁した男は、そのまま立ち上がろうとした。
「ああ、楓」
「はい」
慌てて呼べば、穏やかに返事をし、居住まいを正す。
―本当に似てないな。
佐伯は毎度御馴染みの感想が頭に浮かんで、複雑な感情になった。
「百合の花を持っていきなさい。」