「さぁ!!!」




直撃したのは肩だが、掠った頬から血が出ている。

思いの外強い痛みに沙耶の意識が若干揺らぎかけていたが。



-今、なんて…



呼ばれた名前に、曇っていた視界がやたらはっきりした。



さすがに直ぐに体制をたて直すことができず、倒れこんだ地面には、ライトの硝子の破片と黒い破片が散らばっている。



石垣は構わず沙耶に近づいて、抱き起こそうとした。



「大丈夫か?!」



初めて見る、表情は。


いつかの風景を、否が応でも思い出させる。





『さぁちゃん』



-駄目だ。



栗色の髪の毛。



-駄目だ、思い出しちゃ駄目だ。



優しく労わる、少しだけいつも悲しそうだった目。




「…痛いか…」




沈む陽によって、茜色に染め上げられた後。


ぽつ、ぽつり、と振り出したにわか雨。



掛けられた言葉に。


滲む空を睨んだ。





「…雨だよ、ばーか。こんなん擦り傷にもならないし。」






癪だが、声が掠れる。







「…元気そうで何よりだ。」









誰かが呼んだ、救急車のサイレンの音が、遠くで聞こえた。