そんな母が少し迷惑そうな顔でトーストをかじりながらオレを見た。
『朝から騒々しいわねぇ、もっと早く起きれるようになさい!そんな慌てるんだったら!』
そう言うと手に持っていたトーストを置きスッと立ち上がり扉の向こうにいる犬の方へと歩いて行った。そして扉を開けようとノブに手をかけた。
「ちょっ!、、犬!犬いるから!危ないって!!」
オレは半分、叫び声みたいになりながらも扉を開けようとしている母に向って言った。
オレの叫びみたいなその言葉に驚き振り返ったが困ったような顔をして首をかしげて扉を開けた。
『ガチャリッ』
昔、人間が交通事故に合う際、その一瞬がスローモーションになると聞いた事があった。まさに今、その扉が開く瞬間がそうであった。ゆっくりと隙間ができチラチラとブロンドの毛が見え揺れている
(マジかーー!?やっぱ、いるじゃーん!気のせいじゃなかったかー!)
気のせいでは無いとは分かってはいたがそう思いたかった。
扉を開け、その犬と対面した母の姿を想像しオレは目を閉じ耳を塞いだ。
しばらく経った、、、
(、、、あれ、、?、、、ん?)
オレはゆっくりと目を開け扉の向こうに目をやった。
そこには信じられない光景が広がっていた。
「はっ?どういう事、、?」
意味が分からなく、とっさに出た言葉だった。
母は困ったような顔をしながらオレを見、犬を撫でている。
『あんた何寝ぼけてんの!訳分かんないこと言わないで早く準備して学校行きなさい!』
そう言うと撫でてた犬の方を向き甘い声で今度はその犬に語りかけた。
『モモちゃーん。モモちゃんがナオトの代わりに学校行くー?』
、、、訳が分からないのはオレの方だった。
(モモちゃん?、、学校、、?、、なんだこれは、、今日はエイプリルフールか?いや10月だしな、、)
脳をフル回転させながら色々考えたが自分が今置かれてる状況が全く理解できない。
(オレ、、疲れてんだな、、きっとそうだ)
そう思いこんだ。そして犬とじゃれている母を背に自分の部屋がある二階へとりあえず上がっていった。

部屋に戻ると自分の目を疑った。
朝、起きた時には気付かなかったが家具の配置が昨日の夜寝る前とは違ったのだ。
オレは、そのまま一度部屋を出てくるりと後ろを向き一呼吸深く息を吐きもう一度部屋に入った。
結果は同じだった。
中に入り辺りを見回した。部屋には昔遊んでたゲーム器がありその回りにはゲームソフトが散らばっている。
洋服をかける移動式のポールは無くなっており壁にはハンガーで学生服がかかっている。部屋の淵には物置にしまっていたはずの勉強机がありその棚には捨てたはずの中学校の教科書が並んでいる。
その勉強机がある方へ歩いていき、ふと棚の端のカレンダーに気付き目を映した瞬間、心臓をギュッと掴まれたような衝撃が走った。
(1999年、、!?10月、、!?、、どういう事だ!?ドッキリか!?誰かがサプライズでオレの親にも頼んでこんな大掛かりな事してんのか!?てか何の為に!?え?え?)
パニックになっていた。考えれば考えるほど深みにはまっていった。
そんなパニックに陥ってる中、窓の外から昔よく聞いた懐かしい声が聞こえた。
『ナーオートーくーんー!!』
オレは窓の外に目をやった。
そこには今では音信不通だった中学時代、一番仲の良かったタクヤがあどけない笑みを浮かべオレの部屋に向って手を振っている姿があるのだった。


続く