中年太りのおじさんは、血相を変えかろうじて開いていた電車のドアから走って出ていた。
「チッ・・・。失敗した。しかし、あの体系でよく出て行けたな。」
私の隣にいる男の子は、おじさんの走っていく背中を睨みつけ、親指をかむ仕草をした。
そして、私に視線をおろした。
その子は、私よりも背がとても高くて、見下されているみたいだった。
「・・・大丈夫?」
さっきよりも、すごく穏やかな声で、少し驚いた。
私は恥ずかしくて、顔を上げずにコクンと頷いた。
「そっか。なら良かった。」
とっても優しい声だった。
「でも、嫌なら嫌って言わねーとな。」
私は又、コクンと頷いた。
「次は~成田駅~。」
ここで、降りる駅の名前が出た。
「んじゃ、俺ここなんで。もう、痴漢なんて遭うなよ。」
私はさすがにお礼を言わなきゃいけないな、と思って顔を上げた。
「あのっ!!」
でも、こっちを見たのは、眼鏡をかけたサラリーマン風の男の人だった。