偶然のように、そこにはチャンスが訪れた。


廊下で西垣くんがこっちに向かってくるのを見つけた。

もちろん、西垣くんの目は私に向いていない。


「あの……! 西垣くん」

思い切って話しかけてみた。

でも


「………」

なにも言わないまま、私の横を通りすぎて行った。


私はただ、その場で俯くことしかできなかった。



出そうになる涙を、下唇を噛み締めて、ぐっと我慢した。