ようやく椎菜ちゃんへの尋問が終わった。
3人そろって浴室を出て、ロッカーに向かったときだった。
私は、椎菜ちゃんの異変に気付いた。
……入浴前は私の腕を引っ張るくらいの元気があったのに、私と彩さんのあとをとことこついてきていて、その取りもおぼつかない。
少し思案して、彼女の手を軽く引っ張って脈拍を調べる。
……脈が不規則かつ、速い。
普通椎菜ちゃんのような10代の女性なら、1分間に60~100の間だ。
もちろん、個人によって差はあるけれど。
椎菜ちゃんは安静時に測ったことはないから分からないけれど、今は110くらいだ。
こうなるのなら、参考までに健康診断の後、聞いておけば良かった。
血圧と一緒に。
……こういうところが、まだ私は甘いのだ。
隣に、母がいてくれたらどんなに心強かっただろう。
いや、今更たらればを考えても仕方がない。
母は、私たちには手の届かない世界に逝ってしまったのだ。
1人で、やるしか、ない。
覚悟を決めた。
「椎菜ちゃん、のぼせてる。
悪いけど、彩さん。
水で濡らしたタオル数枚と、団扇、持ってきてもらえますか?
なるべく早くお願いします」
「わかったわ」
彩さんが脱衣場を足早に出ていく。
私は脱衣場の真ん中に鎮座しているベンチソファーに、頭より足を高くした状態で彼女を寝かせた。
嘔吐やめまい等の症状は訴えていなかったが、一応、気道も確保した。
何かあってからでは遅い。
大事な友達だ。
最悪の状態には、させたくない。
次に、手近にあった扇風機を強にして彼女のソファーの近くまで持ってきた。
そこに、タオル数枚とペットボトルホルダーに収めたスポーツドリンクを持った彩さんが走ってきた。
まだ、彼女に指示をして3分も経っていない。
私の傍に団扇を置きながら、言った。
「偉いわ。
さすが、私の執事と愚弟ね。
遅いから、誰かがのぼせてるかもって、一式用意してあったのよ。
作業の速さには感心するわ」
さすが、いろいろ対処が素早い。
医師及び看護師志望もビックリの、手際の良さだ。
やはり私は、そういう職業には、向いていないのだろうか。
いや、そんなことを考えている暇はない。
考えるな、行動するんだ。
それしか、今出来ることはないのだ。
タオルを水で濡らすと、首とワキの下、脚に当てて、腕が疲労を訴えても構わず、何度も何度も何度も何度も団扇で仰いだ。
「ん……
り、な、ちゃ、ん?」
椎菜ちゃんが、ゆっくりと目を開けた。
「椎菜ちゃん、大丈夫?」
「だいじょぶ、たぶん……」
目はまだ焦点が合わず、虚ろだった。
しかし、彩さんの手から受け取ったスポーツドリンクを少しずつ飲むと、目に輝きが戻った。
「ごめん。
迷惑、かけちゃった。
理名ちゃんにも、彩さんにも……。
湯冷めしちゃうよ?
2人とも、早く着替えな?」
私は、ロッカーを開けて、両手いっぱいに自分の服を抱えると、椎菜ちゃんが座るベンチソファー傍の床に放り、そこで着替えた。
着替え終わると、私は再び団扇でひたすら風を送った。
彩さんがドライヤーの冷風をかけてくれる。
私はタオルを冷やし、首とワキの下、脚に当てた。
「アイスノンとかの氷かと思った……
それくらい、きもちい……」
弱っていることもあるし、のぼせているせいで火照った顔と上目遣いの目。
これとセットで聞かせられると、椎菜ちゃんと同性の私でも変な気を起こしてしまいそうになる。
こんな声、麗眞くんには聞かせられないな。
そう思っていると、椎菜ちゃんに鏡を差し出して鏡面に触れさせた彩さん。
この方法は、アメリカで専門的な鑑識の勉強もしたらしい、彼女の父親から教えてもらったという。
鏡面に触れさせたところにセロハンテープを貼って指紋を採取すれば、脱衣場ロッカーの指紋認証を突破できるようだ。
セキュリティ万全だと思っていたのに。
意外なところに抜け穴はあるものだ。
「万全」なんてこの世に存在しないということか。
その証拠に、彩さんは椎菜ちゃんの着替えや彼女がこの屋敷に来る時に着ていた制服をベンチソファーの近くに持ってきた。
「ありがとうございます」
「いいえ、気にしないでいいのよ」
椎菜ちゃんの顔にも、ほんの少し笑顔が戻った。
ゆっくりコットンレースワンピースを身につけた彼女は寝転がっている体勢から座った姿勢になった。
「椎菜ちゃん、気分悪いとかない?
頭痛いとか」
「大丈夫!」
私の問いにも、明るく答えられていた。
もう安心してもいいだろう。
のぼせの所見は皆無だ。
椎菜ちゃんは軽く髪の毛を乾かし終えた後、私たちと一緒に脱衣場を出てロビーに出た。
待ち構えていたように、そっと彼女に近づいて優しく抱き寄せる麗眞くん。
それを見ていると、ほんの少しくすぐったい気持ちになった。
それと同時に、やはり、ここまでしているのに恋人未満というのは、どういうことなのかという疑問も湧いてきた。
3人そろって浴室を出て、ロッカーに向かったときだった。
私は、椎菜ちゃんの異変に気付いた。
……入浴前は私の腕を引っ張るくらいの元気があったのに、私と彩さんのあとをとことこついてきていて、その取りもおぼつかない。
少し思案して、彼女の手を軽く引っ張って脈拍を調べる。
……脈が不規則かつ、速い。
普通椎菜ちゃんのような10代の女性なら、1分間に60~100の間だ。
もちろん、個人によって差はあるけれど。
椎菜ちゃんは安静時に測ったことはないから分からないけれど、今は110くらいだ。
こうなるのなら、参考までに健康診断の後、聞いておけば良かった。
血圧と一緒に。
……こういうところが、まだ私は甘いのだ。
隣に、母がいてくれたらどんなに心強かっただろう。
いや、今更たらればを考えても仕方がない。
母は、私たちには手の届かない世界に逝ってしまったのだ。
1人で、やるしか、ない。
覚悟を決めた。
「椎菜ちゃん、のぼせてる。
悪いけど、彩さん。
水で濡らしたタオル数枚と、団扇、持ってきてもらえますか?
なるべく早くお願いします」
「わかったわ」
彩さんが脱衣場を足早に出ていく。
私は脱衣場の真ん中に鎮座しているベンチソファーに、頭より足を高くした状態で彼女を寝かせた。
嘔吐やめまい等の症状は訴えていなかったが、一応、気道も確保した。
何かあってからでは遅い。
大事な友達だ。
最悪の状態には、させたくない。
次に、手近にあった扇風機を強にして彼女のソファーの近くまで持ってきた。
そこに、タオル数枚とペットボトルホルダーに収めたスポーツドリンクを持った彩さんが走ってきた。
まだ、彼女に指示をして3分も経っていない。
私の傍に団扇を置きながら、言った。
「偉いわ。
さすが、私の執事と愚弟ね。
遅いから、誰かがのぼせてるかもって、一式用意してあったのよ。
作業の速さには感心するわ」
さすが、いろいろ対処が素早い。
医師及び看護師志望もビックリの、手際の良さだ。
やはり私は、そういう職業には、向いていないのだろうか。
いや、そんなことを考えている暇はない。
考えるな、行動するんだ。
それしか、今出来ることはないのだ。
タオルを水で濡らすと、首とワキの下、脚に当てて、腕が疲労を訴えても構わず、何度も何度も何度も何度も団扇で仰いだ。
「ん……
り、な、ちゃ、ん?」
椎菜ちゃんが、ゆっくりと目を開けた。
「椎菜ちゃん、大丈夫?」
「だいじょぶ、たぶん……」
目はまだ焦点が合わず、虚ろだった。
しかし、彩さんの手から受け取ったスポーツドリンクを少しずつ飲むと、目に輝きが戻った。
「ごめん。
迷惑、かけちゃった。
理名ちゃんにも、彩さんにも……。
湯冷めしちゃうよ?
2人とも、早く着替えな?」
私は、ロッカーを開けて、両手いっぱいに自分の服を抱えると、椎菜ちゃんが座るベンチソファー傍の床に放り、そこで着替えた。
着替え終わると、私は再び団扇でひたすら風を送った。
彩さんがドライヤーの冷風をかけてくれる。
私はタオルを冷やし、首とワキの下、脚に当てた。
「アイスノンとかの氷かと思った……
それくらい、きもちい……」
弱っていることもあるし、のぼせているせいで火照った顔と上目遣いの目。
これとセットで聞かせられると、椎菜ちゃんと同性の私でも変な気を起こしてしまいそうになる。
こんな声、麗眞くんには聞かせられないな。
そう思っていると、椎菜ちゃんに鏡を差し出して鏡面に触れさせた彩さん。
この方法は、アメリカで専門的な鑑識の勉強もしたらしい、彼女の父親から教えてもらったという。
鏡面に触れさせたところにセロハンテープを貼って指紋を採取すれば、脱衣場ロッカーの指紋認証を突破できるようだ。
セキュリティ万全だと思っていたのに。
意外なところに抜け穴はあるものだ。
「万全」なんてこの世に存在しないということか。
その証拠に、彩さんは椎菜ちゃんの着替えや彼女がこの屋敷に来る時に着ていた制服をベンチソファーの近くに持ってきた。
「ありがとうございます」
「いいえ、気にしないでいいのよ」
椎菜ちゃんの顔にも、ほんの少し笑顔が戻った。
ゆっくりコットンレースワンピースを身につけた彼女は寝転がっている体勢から座った姿勢になった。
「椎菜ちゃん、気分悪いとかない?
頭痛いとか」
「大丈夫!」
私の問いにも、明るく答えられていた。
もう安心してもいいだろう。
のぼせの所見は皆無だ。
椎菜ちゃんは軽く髪の毛を乾かし終えた後、私たちと一緒に脱衣場を出てロビーに出た。
待ち構えていたように、そっと彼女に近づいて優しく抱き寄せる麗眞くん。
それを見ていると、ほんの少しくすぐったい気持ちになった。
それと同時に、やはり、ここまでしているのに恋人未満というのは、どういうことなのかという疑問も湧いてきた。