浴室に入るのかと思ったら、椎菜ちゃんによって肩を掴まれた。
「何かあるの?」
洗面台らしきところの一角にある棚を指さした彼女は、そこから商品を3つ取った。
そこには、日本全国で発売されているボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、洗顔フォーム、メイク落としなどがずらりと並べられていた。
「ここから、自分が普段使っているものを取ってから洗い場に行くのよ。
合わなくて肌が荒れた、髪がまとまらない、なんてことを防ぐために始めたみたい」
なるほど。
麗眞くんのお姉さんが豪語していた、「どこのホテルよりもサービスがいい」とはこのことなのか。
見たところ、ドライヤーも様々な種類が置いてあるようだ。
私も彼女にならって、ボディーソープとシャンプー、コンディショナーに、クレンジングオイルを脇に抱えるようにして持った。
ドアを開けて、ぺたぺたと洗い場に向かい、持っているものを置いてから、椎菜ちゃんの見よう見まねでかけ湯をしてから、洗い場に向かった。
家で使っているものと同じボディーソープとシャンプーを使って、身体と頭をもこもこの泡で包む。
環境が違うのに、どこか安心感を得ることができるのは、この配慮のおかげなのだ。
ちらりと横目で頭に泡を乗せている椎菜ちゃんを見ると、出るところの出たスタイルだ。
胸はおそらく推定Dカップであろう。
……私なんてBすら危ういのに。
うっすら、下の毛も丁寧に処理してあるのが見えて、彼女に気づかれないよう、小さく息を吐いた。
私なんて、下はおろか、ワキすらも処理していない。
やばいなぁ。
椎菜ちゃんといると、「私も女子なんだ」という自覚を持たされるような気がする。
頭に去来する雑念を払い落とすように、オイルタイプのメイク落としで濃い黒マスカラとアイラインを落とす。
そしてすぐさま身体にこれでもかというくらい頑丈にタオルを巻き付け、浴槽へ向かうべく慎重に歩を進めた。
「あ、これ、ジャグジーついてる……?
すごい!
こんなの初めて!」
この家については、私より熟知している椎菜ちゃんがいるのに、はしゃいでしまう。
こんなことをわざわざ言わなくても、彼女は知っているのだ。
ああ、いらぬ恥をかいてしまった。
それにしても、ジャグジーがついている浴槽なんてホテルすらなかなかない。
この超豪邸、維持費と家賃は桁いくつなんだろう……。
そんなことを思いながら、熱いお湯に肩まで沈める。
そこに、タオルを外した彼女が隣に座った。
お湯が透明なせいで、彼女の細身だがグラマラスな身体が露になる。
直視していられなくて、思わず目を背けた。
それなのに、構わず椎菜ちゃんは、私と目線を合わせてきた。
「ねぇ、理名ちゃん。
さっきから何を気にしてるの?
勘違いされたくないから言っておくけど、下着が可愛くないからとか身体が女の子らしくないとか、そんなちっちゃいことで友達やめたりしないからね。
私、そんな器小さい子じゃないから!」
椎菜ちゃん……?
彼女の決して高いとは言えないけれど、まっすぐな声は、いつもより私の心にも響いた。
メイクを落としてもなお目立つ二重と黒い大きな瞳は、まっすぐ私を射抜いていた。
「私、男の子よりサバサバしてて、それでいてちょっと意地っ張りで寂しがり屋な理名ちゃんが好きだし、そこが理名ちゃんの個性だと思ってるから。
人にはそれぞれ個性があって当たり前だし、そこを好きになれるからこそ、友達でいられるんだし!
だから、ちゃんと、そのままの理名ちゃんでいてほしい。
女の子らしいとからしくないとか、何にも気にしなくていい」
椎菜ちゃんは、全て見抜いてたらしい。
私が、彼女の身体と自分を比べて劣等感を抱いていることも、自分は彼女に釣り合わないと思っていることも。
なんて、洞察力と観察力をしている子なんだろう。
いい友達を持ったなぁ。
「あ、そうだ。
理名ちゃん、好きな人出来たら教えてね?
理名ちゃん、その、未来の彼氏さんに本気で愛されたら私よりスタイルよくなっちゃうかもって思ってるし。
その前にモデルさんとか芸能人としてスカウトされるかもね?
身長高いから羨ましいよ」
「え……。
あの、その、椎菜ちゃんは、本気で、麗眞くんに、そうやって、愛されたこと、あるの?」
気になったから、聞いてみた。
こんなことを平気で、友達になって日が浅い子に聞くなんて、以前の私からすると考えられなかった。
だけど、椎菜ちゃんのさっきの言葉を聞いた後だから、聞くことが出来た。
素直に聞いても、私に対しての友情は揺るがないと分かっていたからこそだった。
「最後まではまだ……なんだよね。
だからまだ、未遂かな」
え、そうなの?
予想外の答えに、口があんぐり開いているのが自分でも分かった。
もうすっかり、卒業してるのだとばかり思ってた。
そんなことを思っていると、浴室のドアが開いて、茶髪ロングヘアをお団子にした女性が入ってきた。
「椎菜ちゃん、それ、多分思い込みよ。
あの愚弟が未遂で済ますはずないわ」
入ってきたのは、麗眞くんのお姉さんだ。
お、お姉さん……まで……?
「ごめんなさいね?
盗み聞くつもりはなかったの。
でも藤原が、3人でガールズトークして来たらって言うから」
椎菜ちゃんが補足してくれた。
藤原さんとは麗眞くんのお姉さんの執事であるらしい。
しばらく経って、お姉さんは洗い場から湯船に入ってきた。
「美人さんですね。
お姉さんも。
美男美女家系って感じで、素敵です」
「あら、ありがとう。
椎菜ちゃんは見慣れてるから、今更なにを、って感じだけれど。
椎菜ちゃんが生まれて5年後くらいから、夏休みに私の両親含めた仲間でバカンスを楽しんでいたから、見知った仲なのよ。
初めて来た子に言われるなら、嬉しいのだけれど」
「気になります。
ご両親もさぞかし麗しいのでしょうね」
「紹介してあげたいけれど、パパもママも明日の朝にならないと帰ってこないわ。
ごめんあそばせ」
そ、そうなの?
それに、彼女は十二分に大人っぽいのに、自分の両親のことを「パパ」「ママ」と呼ぶのも、少し気になった。
それもまぁ、お嬢様がお嬢様たる所以なのだろうか。
「まあ、明日の朝には紹介できるから、椎菜ちゃんと一緒に朝までここにいるといいわ。
宿泊オリエンテーションとやらは明後日の月曜日からでしょう?」
「はい」
「あ、そうそう。
理名ちゃん、だったかしらね。
私の事は彩さんで構わないわ。
変に気を遣われるの、好きじゃないから」
そう呼んでほしいと彼女の方から言われれば、従うほかない。
彼女からしたら、高校生なんてまだまだ子供なのだろう。
「はい。
よろしくお願いします、彩さん」
横でニコニコと微笑んでいる椎菜ちゃん。
彼女を見て、自然と私の顔にも笑みが浮かんでいた。
自分では全く気付かなかったが、椎菜ちゃんも彩さんも笑顔でいる辺りはそうなのだろう。
その後、主に彩さんから、麗眞くんの普段の様子を聞いた。
彩さんにばかりつっかかってくるらしいところを見ると、相当マザコン、ではなく、シスコンの領域に踏み込んでしまっているようである。
学校では微塵もそんな様子を見せない。
意外だ。
そんな人でも大丈夫なのか、主に椎菜ちゃんの麗眞くんへの気持ちを確かめるための会話が、30分もの間、繰り返された。
「何かあるの?」
洗面台らしきところの一角にある棚を指さした彼女は、そこから商品を3つ取った。
そこには、日本全国で発売されているボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、洗顔フォーム、メイク落としなどがずらりと並べられていた。
「ここから、自分が普段使っているものを取ってから洗い場に行くのよ。
合わなくて肌が荒れた、髪がまとまらない、なんてことを防ぐために始めたみたい」
なるほど。
麗眞くんのお姉さんが豪語していた、「どこのホテルよりもサービスがいい」とはこのことなのか。
見たところ、ドライヤーも様々な種類が置いてあるようだ。
私も彼女にならって、ボディーソープとシャンプー、コンディショナーに、クレンジングオイルを脇に抱えるようにして持った。
ドアを開けて、ぺたぺたと洗い場に向かい、持っているものを置いてから、椎菜ちゃんの見よう見まねでかけ湯をしてから、洗い場に向かった。
家で使っているものと同じボディーソープとシャンプーを使って、身体と頭をもこもこの泡で包む。
環境が違うのに、どこか安心感を得ることができるのは、この配慮のおかげなのだ。
ちらりと横目で頭に泡を乗せている椎菜ちゃんを見ると、出るところの出たスタイルだ。
胸はおそらく推定Dカップであろう。
……私なんてBすら危ういのに。
うっすら、下の毛も丁寧に処理してあるのが見えて、彼女に気づかれないよう、小さく息を吐いた。
私なんて、下はおろか、ワキすらも処理していない。
やばいなぁ。
椎菜ちゃんといると、「私も女子なんだ」という自覚を持たされるような気がする。
頭に去来する雑念を払い落とすように、オイルタイプのメイク落としで濃い黒マスカラとアイラインを落とす。
そしてすぐさま身体にこれでもかというくらい頑丈にタオルを巻き付け、浴槽へ向かうべく慎重に歩を進めた。
「あ、これ、ジャグジーついてる……?
すごい!
こんなの初めて!」
この家については、私より熟知している椎菜ちゃんがいるのに、はしゃいでしまう。
こんなことをわざわざ言わなくても、彼女は知っているのだ。
ああ、いらぬ恥をかいてしまった。
それにしても、ジャグジーがついている浴槽なんてホテルすらなかなかない。
この超豪邸、維持費と家賃は桁いくつなんだろう……。
そんなことを思いながら、熱いお湯に肩まで沈める。
そこに、タオルを外した彼女が隣に座った。
お湯が透明なせいで、彼女の細身だがグラマラスな身体が露になる。
直視していられなくて、思わず目を背けた。
それなのに、構わず椎菜ちゃんは、私と目線を合わせてきた。
「ねぇ、理名ちゃん。
さっきから何を気にしてるの?
勘違いされたくないから言っておくけど、下着が可愛くないからとか身体が女の子らしくないとか、そんなちっちゃいことで友達やめたりしないからね。
私、そんな器小さい子じゃないから!」
椎菜ちゃん……?
彼女の決して高いとは言えないけれど、まっすぐな声は、いつもより私の心にも響いた。
メイクを落としてもなお目立つ二重と黒い大きな瞳は、まっすぐ私を射抜いていた。
「私、男の子よりサバサバしてて、それでいてちょっと意地っ張りで寂しがり屋な理名ちゃんが好きだし、そこが理名ちゃんの個性だと思ってるから。
人にはそれぞれ個性があって当たり前だし、そこを好きになれるからこそ、友達でいられるんだし!
だから、ちゃんと、そのままの理名ちゃんでいてほしい。
女の子らしいとからしくないとか、何にも気にしなくていい」
椎菜ちゃんは、全て見抜いてたらしい。
私が、彼女の身体と自分を比べて劣等感を抱いていることも、自分は彼女に釣り合わないと思っていることも。
なんて、洞察力と観察力をしている子なんだろう。
いい友達を持ったなぁ。
「あ、そうだ。
理名ちゃん、好きな人出来たら教えてね?
理名ちゃん、その、未来の彼氏さんに本気で愛されたら私よりスタイルよくなっちゃうかもって思ってるし。
その前にモデルさんとか芸能人としてスカウトされるかもね?
身長高いから羨ましいよ」
「え……。
あの、その、椎菜ちゃんは、本気で、麗眞くんに、そうやって、愛されたこと、あるの?」
気になったから、聞いてみた。
こんなことを平気で、友達になって日が浅い子に聞くなんて、以前の私からすると考えられなかった。
だけど、椎菜ちゃんのさっきの言葉を聞いた後だから、聞くことが出来た。
素直に聞いても、私に対しての友情は揺るがないと分かっていたからこそだった。
「最後まではまだ……なんだよね。
だからまだ、未遂かな」
え、そうなの?
予想外の答えに、口があんぐり開いているのが自分でも分かった。
もうすっかり、卒業してるのだとばかり思ってた。
そんなことを思っていると、浴室のドアが開いて、茶髪ロングヘアをお団子にした女性が入ってきた。
「椎菜ちゃん、それ、多分思い込みよ。
あの愚弟が未遂で済ますはずないわ」
入ってきたのは、麗眞くんのお姉さんだ。
お、お姉さん……まで……?
「ごめんなさいね?
盗み聞くつもりはなかったの。
でも藤原が、3人でガールズトークして来たらって言うから」
椎菜ちゃんが補足してくれた。
藤原さんとは麗眞くんのお姉さんの執事であるらしい。
しばらく経って、お姉さんは洗い場から湯船に入ってきた。
「美人さんですね。
お姉さんも。
美男美女家系って感じで、素敵です」
「あら、ありがとう。
椎菜ちゃんは見慣れてるから、今更なにを、って感じだけれど。
椎菜ちゃんが生まれて5年後くらいから、夏休みに私の両親含めた仲間でバカンスを楽しんでいたから、見知った仲なのよ。
初めて来た子に言われるなら、嬉しいのだけれど」
「気になります。
ご両親もさぞかし麗しいのでしょうね」
「紹介してあげたいけれど、パパもママも明日の朝にならないと帰ってこないわ。
ごめんあそばせ」
そ、そうなの?
それに、彼女は十二分に大人っぽいのに、自分の両親のことを「パパ」「ママ」と呼ぶのも、少し気になった。
それもまぁ、お嬢様がお嬢様たる所以なのだろうか。
「まあ、明日の朝には紹介できるから、椎菜ちゃんと一緒に朝までここにいるといいわ。
宿泊オリエンテーションとやらは明後日の月曜日からでしょう?」
「はい」
「あ、そうそう。
理名ちゃん、だったかしらね。
私の事は彩さんで構わないわ。
変に気を遣われるの、好きじゃないから」
そう呼んでほしいと彼女の方から言われれば、従うほかない。
彼女からしたら、高校生なんてまだまだ子供なのだろう。
「はい。
よろしくお願いします、彩さん」
横でニコニコと微笑んでいる椎菜ちゃん。
彼女を見て、自然と私の顔にも笑みが浮かんでいた。
自分では全く気付かなかったが、椎菜ちゃんも彩さんも笑顔でいる辺りはそうなのだろう。
その後、主に彩さんから、麗眞くんの普段の様子を聞いた。
彩さんにばかりつっかかってくるらしいところを見ると、相当マザコン、ではなく、シスコンの領域に踏み込んでしまっているようである。
学校では微塵もそんな様子を見せない。
意外だ。
そんな人でも大丈夫なのか、主に椎菜ちゃんの麗眞くんへの気持ちを確かめるための会話が、30分もの間、繰り返された。