「さぁ、ゲスト様方?
お先にどうぞ。
来客用の浴場は、なかなかの評判なのよ?
私も今日は、ここを使わせてもらうことにするわ。
ゆっくりお話ししたいし」
私のでよければ、と麗眞くんのお姉さんから着替えを手渡された。
渡されたそれを、躊躇しながら受け取る。
手渡されたのは、丈の短いパイル素材のボーダーロンパースだった。
ワンピースではなくて、つなぎなのも、ボーダーなのも私の好みだった。
超能力かエスパーか。
私の好みなんて、一度たりとも口に出したことはない。
これだけ丈の短いものは、着慣れない。
家では、普段はTシャツに中学校の時のジャージだ。
たかが部屋着を、こんなに女の子らしいものにする意義が、到底理解できなかった。
私の目の前にいる女性は、私とは違う人種の人間なのかと思うほどだった。
「お気に召さなかったらごめんなさいね?
こういうのしかないから……」
「いいえ、とんでもないです。
ありがとうございます」
まさか、気を遣わせてしまった……?
私の思い過ごしだろうか。
本当にそうだとしても、きまりが悪くなる。
私はうつむき加減でお礼を言った。
隣の椎菜ちゃんはというと、バスト部分にフリルが付いたコットン素材の白ワンピースを嬉しそうに抱えながらはしゃいでいる。
「ほら、2人とも。
早くお行きなさいな?
お湯が冷めて、お風呂じゃなくなってしまうわよ」
その言葉を合図に、椎菜ちゃんの腕を引っ張るようにして、浴室に向かった。
もちろん、この家に何度か来たことがあるという、椎菜ちゃんを先頭にした。
そうでないと、たどり着けなくなってしまいそうだったからだ。
迷いなく、この広い廊下を曲がっていく足取りを見ても、この家自体に「慣れている」ことが伝わってくる。
何度か「来た」というレベルでは、ここまでにはならないことは、理解できる。
おそらく、この家に何度も「泊まった」ことがあるのだろう。
片手では数え切れないほどの回数を。
脱衣所に入ると、そこらのホテルや銭湯の脱衣所に似ているが、どこか違う空間が広がっていた。
ロッカーの数がなにぶん、多すぎる。
100なんかでは、到底足りない。
0がもう一つ必要なくらいは、数がある。
よく見てみると、ロッカーは指紋認証で開けるようになっていた。
銭湯などはただの鍵なのに。
何でだろう。
カギが錆びるから?
しかも、どんなホテルよりセキュリティーは高いだろう。
脱衣場のセキュリティーに、ここまでこだわる意義も、到底理解は出来なかったが、安心して過ごすことが出来るのはいいことだ。
いつの間にか、隣のロッカーにいた椎菜ちゃんが、おもむろにブレザーと、アイボリーのブラウスを何の躊躇もなく脱いだ。
続けざまにキャミソールを脱ぐと、ギャザーとサイドベルトにまであしらわれたレース、中央のリボンに一粒添えられた涙型のパールが印象的な下着がいきなり顔を出した。
明らかに、それはランジェリーショップで買ったものであると、ひと目でわかる。
私なんて、庶民御用達の安いお店で買ったものだ。
比べられない!!
見せられない!!
こんなものを見せたら、絶対笑われる!!
友達でいられなくなるに違いない。
椎菜ちゃん、大人っぽいな。
中学の保健体育でも習ったか習わなかったかなんて記憶にない、オトナな秘めゴトを既に経験済みなのだろうか、と思わせるには十分な威力があった。
椎菜ちゃんが胸の上あたりまである髪を結っている隙に、私もブラウスを脱いだ。
どうか、色気などゼロのスポーツブラを見られないように願いながら。
もともと2人しかいない空間を、長い静寂が包んだ気がした。
「理名ちゃん、私、お手洗い行ってくる。
ゆっくりおいでね?
焦らなくていいから」
それだけを言い残して、彼女はロッカーを閉めて、ごく自然に人差し指をかざしてから、バスタオルで身体を覆った。
そして静かに化粧室に向かった。
絶対、ドン引きされたわ……!
せっかく、いつもツンツンしていて素っ気ないし愛想もない私に、初めてできた友達だったのに!
何の色気もない下着とキャミソールを隠すようにロッカーにしまい、身体に何重にもバスタオルを巻きつけた。
そして、黒い縁の眼鏡を外して、眼鏡ケースに収めて、ロッカーの手前に入れた。
ロッカーを閉めると、普通なら硬貨を入れるところに、5本あるうちのいずれかの指をかざすように指示があった。
その通りにするしかない。
「登録されました」の文字と共に一定の機械音が鳴ったのを合図に、椎菜ちゃんが来た。
「ほら、準備が出来たなら、早く行こう?
宿泊オリエンテーションの練習にもなるし!
理名ちゃんとガールズトーク、楽しみ!」
そう言って私の腕を引っ張る彼女の顔は楽しそうだった。
正直に言わせてもらうと、温泉や銭湯に、友達と行ってはしゃぐ女の子の気持ちは、よくわからない。
けれど、せっかく、椎菜ちゃんという女の子の中の女の子に会ったのだから、自分も彼女から何かを学ぼうと思ったのだ。
お先にどうぞ。
来客用の浴場は、なかなかの評判なのよ?
私も今日は、ここを使わせてもらうことにするわ。
ゆっくりお話ししたいし」
私のでよければ、と麗眞くんのお姉さんから着替えを手渡された。
渡されたそれを、躊躇しながら受け取る。
手渡されたのは、丈の短いパイル素材のボーダーロンパースだった。
ワンピースではなくて、つなぎなのも、ボーダーなのも私の好みだった。
超能力かエスパーか。
私の好みなんて、一度たりとも口に出したことはない。
これだけ丈の短いものは、着慣れない。
家では、普段はTシャツに中学校の時のジャージだ。
たかが部屋着を、こんなに女の子らしいものにする意義が、到底理解できなかった。
私の目の前にいる女性は、私とは違う人種の人間なのかと思うほどだった。
「お気に召さなかったらごめんなさいね?
こういうのしかないから……」
「いいえ、とんでもないです。
ありがとうございます」
まさか、気を遣わせてしまった……?
私の思い過ごしだろうか。
本当にそうだとしても、きまりが悪くなる。
私はうつむき加減でお礼を言った。
隣の椎菜ちゃんはというと、バスト部分にフリルが付いたコットン素材の白ワンピースを嬉しそうに抱えながらはしゃいでいる。
「ほら、2人とも。
早くお行きなさいな?
お湯が冷めて、お風呂じゃなくなってしまうわよ」
その言葉を合図に、椎菜ちゃんの腕を引っ張るようにして、浴室に向かった。
もちろん、この家に何度か来たことがあるという、椎菜ちゃんを先頭にした。
そうでないと、たどり着けなくなってしまいそうだったからだ。
迷いなく、この広い廊下を曲がっていく足取りを見ても、この家自体に「慣れている」ことが伝わってくる。
何度か「来た」というレベルでは、ここまでにはならないことは、理解できる。
おそらく、この家に何度も「泊まった」ことがあるのだろう。
片手では数え切れないほどの回数を。
脱衣所に入ると、そこらのホテルや銭湯の脱衣所に似ているが、どこか違う空間が広がっていた。
ロッカーの数がなにぶん、多すぎる。
100なんかでは、到底足りない。
0がもう一つ必要なくらいは、数がある。
よく見てみると、ロッカーは指紋認証で開けるようになっていた。
銭湯などはただの鍵なのに。
何でだろう。
カギが錆びるから?
しかも、どんなホテルよりセキュリティーは高いだろう。
脱衣場のセキュリティーに、ここまでこだわる意義も、到底理解は出来なかったが、安心して過ごすことが出来るのはいいことだ。
いつの間にか、隣のロッカーにいた椎菜ちゃんが、おもむろにブレザーと、アイボリーのブラウスを何の躊躇もなく脱いだ。
続けざまにキャミソールを脱ぐと、ギャザーとサイドベルトにまであしらわれたレース、中央のリボンに一粒添えられた涙型のパールが印象的な下着がいきなり顔を出した。
明らかに、それはランジェリーショップで買ったものであると、ひと目でわかる。
私なんて、庶民御用達の安いお店で買ったものだ。
比べられない!!
見せられない!!
こんなものを見せたら、絶対笑われる!!
友達でいられなくなるに違いない。
椎菜ちゃん、大人っぽいな。
中学の保健体育でも習ったか習わなかったかなんて記憶にない、オトナな秘めゴトを既に経験済みなのだろうか、と思わせるには十分な威力があった。
椎菜ちゃんが胸の上あたりまである髪を結っている隙に、私もブラウスを脱いだ。
どうか、色気などゼロのスポーツブラを見られないように願いながら。
もともと2人しかいない空間を、長い静寂が包んだ気がした。
「理名ちゃん、私、お手洗い行ってくる。
ゆっくりおいでね?
焦らなくていいから」
それだけを言い残して、彼女はロッカーを閉めて、ごく自然に人差し指をかざしてから、バスタオルで身体を覆った。
そして静かに化粧室に向かった。
絶対、ドン引きされたわ……!
せっかく、いつもツンツンしていて素っ気ないし愛想もない私に、初めてできた友達だったのに!
何の色気もない下着とキャミソールを隠すようにロッカーにしまい、身体に何重にもバスタオルを巻きつけた。
そして、黒い縁の眼鏡を外して、眼鏡ケースに収めて、ロッカーの手前に入れた。
ロッカーを閉めると、普通なら硬貨を入れるところに、5本あるうちのいずれかの指をかざすように指示があった。
その通りにするしかない。
「登録されました」の文字と共に一定の機械音が鳴ったのを合図に、椎菜ちゃんが来た。
「ほら、準備が出来たなら、早く行こう?
宿泊オリエンテーションの練習にもなるし!
理名ちゃんとガールズトーク、楽しみ!」
そう言って私の腕を引っ張る彼女の顔は楽しそうだった。
正直に言わせてもらうと、温泉や銭湯に、友達と行ってはしゃぐ女の子の気持ちは、よくわからない。
けれど、せっかく、椎菜ちゃんという女の子の中の女の子に会ったのだから、自分も彼女から何かを学ぼうと思ったのだ。