「で?
何があったわけ?」

「そうそう、話しなさいよ、せっかく椎菜もいるんだし」

修学旅行が終わり、いつもどおりの日常が戻ったある日のこと。

深月と美冬、琥珀と椎菜と私は、琥珀の家に集まっていた。

いつになく覇気がない琥珀から聞いた話。

大学に受かったら一緒に、琥珀の豪邸で住まないかという提案をされたというのだ。

しかも、巽くんから。

巽くん自身も、琥珀の両親から打診を受けたらしい。

「えっと、つまり、巽くんと琥珀は琥珀の両親公認の仲、ってこと?

相当気に入られたのね」

羨ましい、と言ってのける椎菜。

貴女も親公認の仲でしょ、と茶化す深月たち。

まぁね、という曖昧な返事を椎菜は返した。

「ね、何かあったでしょ。

喧嘩でもした?麗眞くんと」

とてもそんな風には見えないが、美冬や深月は何かピンとくるものがあるらしい。

女の勘、ってやつ?

「深月と美冬には分かっちゃうか。

聞いたのよ、麗眞に。

琥珀と美冬の2人と口をきいていない理由。

私も、つい言っちゃったの。

『昔から人の気持ちを考えないでズケズケと発言する癖、直せるうちに直さないとダメだよ。

次期当主になったときに悪い影響を与えるかもしれないよ』って。

そしたら売り言葉に買い言葉でね。

こんな喧嘩するの、初めてかも。

修学旅行終わったら泊まりで海っぺりにあるテーマパーク行こ、って計画立ててたのに。

フイになっちゃったなぁ」

ふーん、珍しいこともあるのね、2人は喧嘩しないと思っていたのに、なんて美冬が言う。

「そりゃ、喧嘩もするよ、たまにはね。

理名と拓実くんはラブラブだったみたいだけどね、いいなぁ。

ま、でもその様子だと、ロストはしていないみたいね。

琥珀の方が先かな?

でも、体育のダンスの発表もあるし、深月の生徒会選挙もあるし。

ロストするのはその色々が終わってからになりそうね」

生徒会選挙。

そうなのだ。

もうすぐ、生徒会選挙がある。

深月が生徒会長に立候補している。

何やら準備のためか、部活を時々休んでいるようだ。

あまり表立って票集めが出来ないのが悩みのタネのようだ。

彼女ならきっと、今よりいい学園にしてくれると信じている。

美冬も、深月を放送部という立場から応援するために、何やら策を練っているようだ。

皆、頑張ってるなぁ。

私も、私に出来ることを、頑張らないとなぁ。

そういえば、明後日の体育の授業でダンスの発表もあるらしいのだ。

私としては、発表を見ている間だけ、授業をサボれるからいいのだけれど。

苦手な体育の時間が短くなるなんて、天国のようだ。

そこで改めて、この学園の自由奔放さが垣間見えることになるなんて、私はまだ知らない。