はぁ、と秋山くんと深月が盛大な溜息をついた。
「仮眠取ろうと思ったのに、どこかの誰かさんのせいね。
寝る時間、なくなったわ。
そろそろ移動しないとマズイよ」
「え、マジ?」
「まぁ、飛行機の中で寝ればいいだろ。
行きの時みたいにテンション高くはしゃいでいる奴は少ないと思うぜ」
気付けば、そろそろレストランに向かわないと間に合わない時間になってしまっている。
「担任に、大観衆の前で大目玉喰らいたくはないなぁ」
「話は聞いたよー。
そのレストランなら行きつけだから、多少遅れても待ってもらえるように話し通しておく。
だからホラ、早く行こう?
ウチの旦那がまとめて送ってくれるって」
ひょっこり、リビングに顔を出したのは、有海さんだ。
その後ろには、彼女の夫の奈斗さんと、美冬と小野寺くんの姿があった。
「過呼吸起こしやすい、って聞いてたから、少し様子を見てたんだ。
だけど、大丈夫そうだね。
顔色もいいし。
体調悪いとかないなら、乗っていくといい」
私たちを順番に案内して、最後に有海さんが、人差し指の指紋でドアに鍵をかけた。
ああ、やっぱりそういう仕様なんだ……
「お母さん、麗眞くんのお父さんに許可貰って、ドイツでコンサートやるときはここに泊まってるもんね」
ああ、やっぱりそういう……
車を走らせながら、深月と美冬に話しかけるのは、奈斗さんだ。
「悪くも思わないでやってくれな、麗眞くんのこと。
昔から色恋沙汰だけには敏感で、そこには気が回るやつだったんだがな。
まぁ、元々裕福な金持ち育ちで自由にやってきたんだ。
そういう精神的な成長は、君たちより遅いのかもな。
そこを上手くいい方向に持っていけたら、人間的にも成長できると思うんだがな」
「まだ高校生でそこまで出来てたらすごいって。
私の親友、華恵はむしろ、今の貴方たちの年代の頃から感情の機微に敏感すぎる部分があったのよね。
だからこそ、今敏腕弁護士出来てるんだろうし」
それは、この間の講演や、一緒に食事をした時に嫌というほど感じていた。
バックグラウンドが違う美冬や深月、秋山くんや小野寺くん、麗眞くんに椎菜。
それに私。
それぞれに適切な、時に厳しい言葉かけもしていた。
その言葉のセンスが絶妙だった。
何かあったら相談したい、と思わせてくれる柔和な笑顔。
それだけではなく、目の奥にしっかりとした強い光が灯るのを感じさせてくれた。
「とにかく、何か困ったら華恵づてでも構わないから連絡をちょうだい。
特に、戸惑うことが多い琥珀はね。
あ、あと、理名ちゃんもね?」
自分の娘を心配するのは分かるが、なぜ私の名前がそこで出てくる?
「んー?
ドイツに行ったときに、何とかして接触してみるのよ。
貴方の彼氏さんの顔は知ってるし。
その方が貴女も、これからの学園生活頑張る糧になるでしょ?
この台詞、麻未や真くん夫婦にも言われたみたいだけど、私からも改めて言うわ。
皆が平穏無事に、高校生活を終えられるように、少しでも手助けをしたいのよ。
特に、華恋ちゃん、って言ったかしら。
貴女が心配ね。
家庭的にいろいろありそうだし。
由紀が珍しくカウンセリングに手を焼いているみたいだし。
何もなければ、いいのだけれど」
この人は、どこまで知っているんだろう。
人脈ありすぎでしょ。
少し相談したら、あらゆるルートに話がいくのだろう。
解決策はたくさん見つかりそうな点は有難い。
しかし、この人たちに秘密厳守という概念は果たしてあるのか?
「話は済んだか?
そろそろ着くぞ。
すぐ降りられるように準備しておくといい」
「あの、いろいろありがとうございました!」
皆が慌ただしく車から降りていく。
深月と美冬、私は奈斗さんにもお礼を言って車から降りた。
日本から持ってきた、疲労回復のエナジードリンクをそっと2本、後部座席に置いてから。
お礼の気持ちは少しでも伝わるだろう。
「仮眠取ろうと思ったのに、どこかの誰かさんのせいね。
寝る時間、なくなったわ。
そろそろ移動しないとマズイよ」
「え、マジ?」
「まぁ、飛行機の中で寝ればいいだろ。
行きの時みたいにテンション高くはしゃいでいる奴は少ないと思うぜ」
気付けば、そろそろレストランに向かわないと間に合わない時間になってしまっている。
「担任に、大観衆の前で大目玉喰らいたくはないなぁ」
「話は聞いたよー。
そのレストランなら行きつけだから、多少遅れても待ってもらえるように話し通しておく。
だからホラ、早く行こう?
ウチの旦那がまとめて送ってくれるって」
ひょっこり、リビングに顔を出したのは、有海さんだ。
その後ろには、彼女の夫の奈斗さんと、美冬と小野寺くんの姿があった。
「過呼吸起こしやすい、って聞いてたから、少し様子を見てたんだ。
だけど、大丈夫そうだね。
顔色もいいし。
体調悪いとかないなら、乗っていくといい」
私たちを順番に案内して、最後に有海さんが、人差し指の指紋でドアに鍵をかけた。
ああ、やっぱりそういう仕様なんだ……
「お母さん、麗眞くんのお父さんに許可貰って、ドイツでコンサートやるときはここに泊まってるもんね」
ああ、やっぱりそういう……
車を走らせながら、深月と美冬に話しかけるのは、奈斗さんだ。
「悪くも思わないでやってくれな、麗眞くんのこと。
昔から色恋沙汰だけには敏感で、そこには気が回るやつだったんだがな。
まぁ、元々裕福な金持ち育ちで自由にやってきたんだ。
そういう精神的な成長は、君たちより遅いのかもな。
そこを上手くいい方向に持っていけたら、人間的にも成長できると思うんだがな」
「まだ高校生でそこまで出来てたらすごいって。
私の親友、華恵はむしろ、今の貴方たちの年代の頃から感情の機微に敏感すぎる部分があったのよね。
だからこそ、今敏腕弁護士出来てるんだろうし」
それは、この間の講演や、一緒に食事をした時に嫌というほど感じていた。
バックグラウンドが違う美冬や深月、秋山くんや小野寺くん、麗眞くんに椎菜。
それに私。
それぞれに適切な、時に厳しい言葉かけもしていた。
その言葉のセンスが絶妙だった。
何かあったら相談したい、と思わせてくれる柔和な笑顔。
それだけではなく、目の奥にしっかりとした強い光が灯るのを感じさせてくれた。
「とにかく、何か困ったら華恵づてでも構わないから連絡をちょうだい。
特に、戸惑うことが多い琥珀はね。
あ、あと、理名ちゃんもね?」
自分の娘を心配するのは分かるが、なぜ私の名前がそこで出てくる?
「んー?
ドイツに行ったときに、何とかして接触してみるのよ。
貴方の彼氏さんの顔は知ってるし。
その方が貴女も、これからの学園生活頑張る糧になるでしょ?
この台詞、麻未や真くん夫婦にも言われたみたいだけど、私からも改めて言うわ。
皆が平穏無事に、高校生活を終えられるように、少しでも手助けをしたいのよ。
特に、華恋ちゃん、って言ったかしら。
貴女が心配ね。
家庭的にいろいろありそうだし。
由紀が珍しくカウンセリングに手を焼いているみたいだし。
何もなければ、いいのだけれど」
この人は、どこまで知っているんだろう。
人脈ありすぎでしょ。
少し相談したら、あらゆるルートに話がいくのだろう。
解決策はたくさん見つかりそうな点は有難い。
しかし、この人たちに秘密厳守という概念は果たしてあるのか?
「話は済んだか?
そろそろ着くぞ。
すぐ降りられるように準備しておくといい」
「あの、いろいろありがとうございました!」
皆が慌ただしく車から降りていく。
深月と美冬、私は奈斗さんにもお礼を言って車から降りた。
日本から持ってきた、疲労回復のエナジードリンクをそっと2本、後部座席に置いてから。
お礼の気持ちは少しでも伝わるだろう。