病院からホテルに戻ると、ロビーには見知った顔がいた。

麗眞くんだ。

いつも自信たっぷりなはずの彼の顔は、心なしか曇っていて、元気がないのはすぐに分かった。

「椎菜が心配?」

「理名ちゃんか。
まぁね。

心配は心配だが、椎菜がずっとしんどいのを見抜けなかった俺自身に、一番腹が立ってる。

そうだな、あとアウト1人のところで監督に交代を告げられたピッチャーみたいな、なんともやるせない感じ」

例えが意味不明だが、何となく言わんとしていることは分かった。

「そんなんで、あと数年後は大丈夫なの?
先が思いやられるわ。

今の私と拓実みたいに、会いたくても会えなくなる距離になるんでしょうが。

その言葉が、つい滑り出た。

彼は慌てて周りを見渡して、唇に手を当てた。

しかし、時既に遅し。

「聞いたわよ、麗眞くん。

それ、どういうこと?」

「そのこと、まさか最終学年になるまで椎菜に言わないつもり、とかは言わないでよね」

「そうだぞ麗眞。

今なら会えるときに会えるからいいだろうが、それがパッタリなくなったら、意外と脆いもんだぞ」

「しかもそれ、俺たちは今初めて聞いたしな。

俺たちにも秘密にするつもりだったのは、親友として水くさいんじゃね?

俺たちを信頼してないってことか?

悪いけど、俺たち全員、口は堅いと自負してるんだけどな」

とにかく、もっと話をするに相応しい場所に行こうと言ったのは深月だった。

深月は、ベージュのパンツに白い薄いピンクのハイネックニット、薄手のグレーカーディガンを羽織っている。

美冬は、白いニットにラベンダーのパンツ、黒いコートという服装だ。

いいから着替えてくる、と言って、彼女たちに背中を押された。

そういえば、適当な服着てきちゃったんだ。

まさか外国で病院送りになるなんて微塵も思ってなかったし。

エレベーターホールのところで、ジーンズにアイスブルーのニット、チェックのジャケットという服装が新鮮な華恋とかち合った。

「あ、理名?

もう体調は大丈夫なの?

戻れなそうだったら、着替えとか持っていこう行く予定だったのよ」

彼女はそう言って、袋を手渡すと、フロント階の女子トイレに案内してくれた。

着替えたあとに、化粧を施すための道具を貸してくれたのも助かった。

相沢さんは、ペコリと私に一礼して、言葉をかけてくれた。

「体調に問題がなさそうなら何よりです」

彼はそのままどこでレンタルしたのか、高そうな外車の運転席に乗り込んだ。

後部座席に私たちを無理やり詰めて乗せると、車を走らせた。

行き先は、見覚えのあるところだった。
拓実とコトを進めるかもしれなかった場所、宝月家の別荘だ。

しかも、先客がいた。

相沢さんがインターホンを鳴らすと、キレイなエメラルドグリーンのドレス姿の女性が顔を見せた。

その隙間から巽くんと、琥珀の姿もあった。

あれ?
何で琥珀と巽くんがここにいるの?