私は夜中に頭痛がして起きてしまった。

夜中にトイレに行くときに目眩がした。

これはヤバいと思い、思わず拓実を呼んだことくらいだ。

多少寝不足ではあるが、薬が効いたのか、身体の熱さは今はない。

多少咳は出るが、激しく咳き込むのはなくなった。

拓実を呼ぼうか。

けれど、研修の邪魔だろうか。
思案しているときに、ふと隣の病室からだろうか。

激しい嗚咽と咳き込む音が聞こえた。

隣の病室には、椎菜がいたはずだ。

強い薬が身体に合わなかったのだろうか。

このまま嘔吐を続けるようだと薬の成分は全て体外に出てしまう。

薬も替えなくてはならない。

早い回復も見込めそうにないな。

麗眞くんは帰りの飛行機の座席は1人なのだろうか。
何だかそれも可哀想だなぁ。

コンコンとノックの音がした。

「Wie geht‘s?

なんてね。

ちょっとドイツ語使ってみた。
貰ったやつ、使ってみ?

きっと訳してくれるはず。

体調はどう?って意味だよ」

拓実も寝不足なのだろう、いつもより低めな声の病室の外からの声がした。

聞き覚えのある声に安心した。

相沢さんがくれたやつを病院着の胸元に着けて、彼にもう一度同じ言葉を話してもらう。

確かに訳してくれたのを確認する。

私もドイツ語で返すべく、『ありがとう、少し良くなった』と日本語で話す。

『Danke, schon besser.』

拓実の微笑んだ顔を見るに、ちゃんと訳してくれたようだ。

すごいなぁ、これ。

「理名が元気そうで良かった。

俺はこれから、正瞭賢公認カップルの片割れを診なきゃなんだ。

昨夜から何度か嘔吐してるみたいで。

薬を替えるという話にはなったが、薬剤の選定が難しくてね。

回復も少し遅くなりそうだ。

プリンセスと一緒に日本に帰れなくはなるから、さぞかし麗眞も不機嫌だろうな。

とにかく、椎菜ちゃんを元気にして帰してやるのが俺たちの使命だ。

もちろん、理名もな。

ちょっとひと仕事してくるから、恋人らしいこと、少ししかできないけどごめん」

軽く私を抱きしめてくれた拓実。

朝だからか、白衣で隠れてはいるがズボンの中央の膨らみが当たって少し気になる。

「朝だし、好きな子抱きしめて反応しない男いないよ?

いい子にしててね。

ちゃんと日本に帰ったら、何年か分のご褒美あげるからさ。

考えておいて?」

私の身体を離した後、深く唇を重ねられた。

こんな静かな病室じゃ、私の心臓の鼓動、聞かれちゃわないかな……

「こんなんじゃ足りない。

また今度会うときに、これの続きでもしようか」

そう言って私の頭を何度か優しく撫でて、病室を出ていった彼。

こんなのずるいよ。

日本に帰っても、拓実に会いたくなっちゃうじゃん。

軽く診察をして、薬を貰った。

薬は飲んでほしいが、咳も熱もないからぶり返すことはないだろう、どの判断。

病院から出る間際。

後ろから、私を呼ぶ声がした。

「理名!」

「上手くやれよ。
大学受験の時には多分日本に戻るから。

それまで顔は直接見れないけど、せめてパソコン越しでは見れるし。

あんまり無理されると、俺が心配になるから。

上手に、圭吾とか麗眞、道明とか賢人にも頼って、乗り切ってね。

名残惜しくなるから、これだけ」

舌が絡まるキスを何度もされて、最後に触れるくらいの軽いキス。

病み上がりの子にはちょっとキツかったかな?

でもこれくらいしないと、俺も寂しくなりそうでさ。

また会おうね、理名」

何度か、いつもみたいに頭を撫でて、拓実は病院に戻って行った。

本当に、私の彼氏はズルい人だ。

こんな数日で、私をこんなにも満たしてくれるんだから。

彼がちゃんと日本に戻って来るまでに何かお礼、考えないとな。

何がいいかな。