中間テストが返却された頃。

学校では、進路を調査するための面談が行われていた。

進路なんて、考えたことがなかったといえば嘘になる。

しかし、クラス分けもされた今、現実的に考えるフェーズに来ているのかもしれない。

面談の日が近づくにつれて、クラス全員の顔が徐々に暗くなっていくのがわかった。


こういうとき、出席番号順なのは良い。
すぐに終わる。

出席番号が最初のほうだということに、今日ほど感謝した日はない。

「……岩崎。
お前は、進路については
どう考えているんだ?
大学に進学するのか?」

少し老けた印象のある、男性教師が問いかけてくる。
答えはハッキリ決まっていた。

「大学に行きます。
医大です。

なるべく、早いうちから臨床経験のある医大がいいと考えています。

偏差値が足りていないのは分かっていますが、
成都輪生大学の受験を視野に入れています」

その大学は、中間テスト前最後のバイトでシフトが一緒になった大学生が通っている医大だった。

臨床経験も早くから積めると言っていたし、将来有望なものには奨学金制度はもちろん、留学経験も積ませてくれるとのことだった。

母のような医師になる。
そのために、出来る努力は何でもする。
その覚悟は出来ていた。

「そうか。
そういえば、中学のときに母親を亡くされてるんだったか。

医師を目指すという進路を、頑なに変えないのはその影響か?」

教師の言葉に、強く首を縦に振った。

「そうか。
夢があるとは、いいことだ。
夢なんてないなんて、平気で言う若者が今は多い。
そんな中、逆に感心だよ。
だけどな、視野が凝り固まるのは良くない。

夢を否定しているわけじゃない。
強い思いに囚われると、視野が狭くなって、見えるものも見えなくなる。

常に、視野を広く持つことを意識するといい。
と入っても、人間なかなか難しい。

かく言う私も、常に意識できてるかと言われると違う。
頭の片隅においておくだけでも違うぞ」

やけに的確な、含蓄のあるアドバイスをもらったような気がする。

私達の倍は生きているような人間は、そもそも生きてきた時代背景からして違いすぎる。

経験してきたものも当然に違うのだろう。

だからこそ、これからの時代を生きる私たちに伝えたいこともたくさんあるのだと感じた。

そして、チラシを2枚渡してきた。

1枚目は、夏休みの模試。

医大を受験する学生向けになっていて、模試の解説とともに、推薦入試を少しでも考えている人向けに、推薦入試の対策講座も合わせてやってくれる。

内容は充実している分、3日間拘束されるものだった。

2枚目は、これも夏休みに行う、1日医師体験ができるという、市内の大学附属病院が参加者を募るチラシだった。

「養護の伊藤先生からいろいろ聞いているよ。

具合の悪い生徒の兆候等を的確に見抜いて、適切な医療機関につなげる手腕が素晴らしいってね。

岩崎は親が看護師だったこともあって、AEDや蘇生法にも詳しい。

もしかしたら2枚目のチラシの内容は蛇足になるかもしれないがな。

まぁ、参加したかったら声をかけてくれ。
まだ定員には全然達していないという話だ。

私はいつでも、時間外でも、生徒の進路相談のみならず、様々な相談には応じるつもりでいるんだ。

困ったり、悩んだりしたら、いつでも相談してきていいからな。

私は、このクラスの皆が、希望通りの進路に進んでくれれば、こんなに嬉しいことはないんだから」

面談は、40分ほどで終わった。

何日かかけて、クラスの皆に面談をしているらしい先生。

昼休みの食堂での話題は、進路や面談の話で持ちきりだった。

そんな中でも、時間は過ぎていく。
バイトをするようになって3ヶ月経った頃、事件は起こった。