巳波は嫌そうな顔をしながらも決してお姫様の腕を振りほどこうとはしない。


目の前が暗くなる。


それまで笑顔だったあたしの顔も簡単に崩れた。


ぼぉっと二人の交差された腕を見つめる。


お姫様はあの赤髪の威圧感が凄い人と付き合ってるのかと思った。


…だって、大抵お姫様は総長とくっつくじゃない。


小説はいつも同じ様な展開。


でも、違う。


小説のようにいかないのが現実なんだ。


ニヤリ、不気味な笑みをお姫様はあたしに向ける。


清純そうな見た目からは想像も出来ない程不気味な笑み。


「神代さん…?」


クラスメイトの子に呼ばれ、ようやく引き戻された。


笑顔を無理矢理貼り付け、2人を空いている席へと案内する。


「これがメニューになりますご主人様」


極力2人を見ないように目線を下げて立ち去ろうとした時


「ねぇ」


お姫様に呼ばれた。


クルリともう一度向き直りお姫様を見る。


するとお姫様は声に出さず口パクで


“八尋はあたしのモノだから”


と言ってゆるりと口元を緩ませた。