「…あんたの妹は俺の大事な子を誘拐したんだよ」


「は…?」


信じられないとでも言うような顔。


それまで拳を胸の前で構えていた男だったが、途端に拳を下ろし表情が消えた。


「嘘、だよな」


俺に背を向け、お姫様の方に向き直る。


俺はその様子を何をするわけでもなく、壁に寄りかかり見るだけ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」


お姫様は顔を俯かせ、震えながら謝るだけ。


謝るぐらいなら最初からしなければいいのにな。


それに、謝る相手を間違えてる。


それは誰に対しての“ごめんなさい”だ?


俺に対して?


自分の兄に対して?


柚に対して?


「…ごめんなさいじゃ分からないだろ」


兄の方もさっきまでの勢いは無く、力ない声で問いかける。


自分の妹が悪いことをしたのがわかったんだろう。


本人も謝るだけで、肯定してるのと同じだしな。