──ピンポーン


二回目の機械的な音に私の肩が跳ねる。


一日でこうも人が来るのが多いと驚く。



「…行かないのか?」



そう言った課長の声はさっきよりも低さが
増していて怖い。



「…だ、誰かわからないじゃないですか」



「…は?じゃあなんで俺は中に入れたんだよ」



「か、課長はなんか大丈夫だったんです!」



「…チッ。そんなに怖いなら出なくて良いんじゃないか」



「で、でも、一回行ってきますっ」



さっきとはまた違う涙が襲ってきそうになって
大きく息を吸い込んだ。


玄関まで忍び足で向かい、恐る恐るスコープを覗く。


深く帽子を被り、サングラスにマスクという
明らかに不審な人がいた。


(ど、どうしよ。一応開けるべき?)


──ガチャ…


その音と共にその男は流れ込んできた。



『…おい、金はあるか?』



その男は金の有無を訪ねてきた。



「も、持ってないです…」



そう小さい声で言うと、チッという小さな舌打ちが聞こえた。



『俺もあんま強情な事したくないんだけどなぁ…?
言うこと聞いてくれないとこっちも困るんだよねぇ…』



そう言った男はサングラスをはずした。


(この人…朝テレビで見た窃盗犯だ…
どうしよう…。開けるべきじゃなかった!)


課長に助けを求めてしまって怪我なんてさせたくない。


──自分で何とかしなくちゃ。



『…何考えてんのかな?早くくれる?』



どうしようかと必死に考えていると、
頭上から聞きなれた、声。



「お前に貸す金なんかあると思うか?」

そう言って課長は私をその人から見えないように抱き締めた。



『へぇー、男いたんだ。じゃ、そっちで良いや。
おにーさん、お金頂戴よ。今月厳しいったら無いの』



窃盗犯が馬鹿みたいなことを言っている。



「はは、何言ってんだ?聞こえなかったのか?
しょうがないな、もう一回言おうか?
──お前に貸す金なんかねぇよ」


低く、ドスの聞いた声で相手を睨み付けた。


もう一度男は舌打ちをすると、頭を掻いて
外に出ていった。



「──っ!お前は!バカなのか!
あんな見た目からして危ない奴を家に上げようとするな!
不審な奴だと思わなかったのか!」



「ふっ…えぐっ…。思いまじだぁ…」



「だったらもっと危機管理をしてくれよ…
泣かせたかった訳じゃないんだ、俺だって…」



抱き締めている腕の力を少しだけ強くして
私の耳元でため息を吐いた。


課長の服の香りに安心して、沢山泣いた。



「頼むから、もうこんな危ない事するな…」



親指の腹で私の頬をなぞって涙を拭うと、
課長は私に微笑んだ。



「…頼むよ、星村。な?」


そう言ってまた泣き出してしまった私に
課長は安心したように笑ったのだ。


心臓の音が半端ない。


『嬉しい事があるんです!』


課長が守ってくれた、課長の笑顔をみた、
課長が私に怒った、課長の事が…
好きになってしまった。

──嬉しく感じてしまうのもこの気持ちのせいなのかな?