「…星村」


「……はい」


私の声色に課長は訝しげな顔をして
見ていた書類からこちらに目を向けた。


「……元気がないな。体調でも悪いのか?
それとも昨日のアレか?」


違う。でも課長のせいだなんて言えない。


「……何でもありません。失礼します」


「──待て。今日、お前…俺の事残業して待ってろ。
……いいな?」


前よりも優しさを帯びた目に見つめられ、
私ははいとしか言えなかった。

──夜?課長と?なんで?だってだって……
課長は私なんか相手にしてくれない……。

* * * * * * * * * * *

その日の夜私は本当に残業を任されていた。


「槙村…ちょっと」


課長は同僚の方に呼ばれいなくなってしまった。

しばらくすると難しい顔をして帰ってきた。

そろそろ日付を越そうとしている時間になって
やっと二人だけになった。


「星村、行くぞ?」

「どこにですか!」

「お前ん家」

「な、何でですか!だ、ダメです!
掃除もしてないから部屋が散らかってます!」

「ははっ、元のお前に戻ったな」

「…え?」

元のって…

「でもダメだ。
お前の家に行くぞ?──いいな?」


そんな言い方されたら断れない。

「外に俺の車があるから、ちょっと待ってろ」

え?一緒に行くの?課長の車に乗るの?
そんなの恥ずかしすぎる!

「ま、待ってください!別々に行きましょう?
私が車に乗ってるとこなんて見られたら
課長が困るでしょう?
だから──」

「別に見られれば良いだろう?
何をそんなにお前は怖がってるんだ。
別々には行かない。
そんなに不安ならついてこい、真白」


──名前、初めて呼ばれた。


「…真白?どうした、行かないのか?
──おい、また泣いてんのか?」

「はひっ…ふぇっ…な、泣いて、なんて、ない、です」


課長はフッと笑って顔を近づけて来た。

「──可愛い…」















唇が重なった───