―未遥said―

龍樹くんからの電話を切った後、
あたしは陽の方に向き直った。



『んで....陽は全部知ってた?』




あの後、夏樹が帰る直前に、
陽が店に入ってきた。


夏樹を見ても驚かなかった陽を見て、
あたしがびっくりした。


あたしの顔を見てから、
夏樹に『泣かしたな』って笑いかけたのを見てあたしは確信した。



ぁあ....陽はやっぱり本当の事、
全部知ってたんだ....と。





『夏樹と言わねぇって約束してたんだ。黙っててごめんな、未遥』
陽は優しい声で慰めるように言った。



『ううん。約束守るのは陽のいいところだよ。あたしは全然....ただ....』



あたしが知らなかったのはどうでもいい。
ただ....





凜が知らないっていうことだけが、
気になる....。





『凜には伝えるのか?』


『言えないよ....夏樹の気持ち考えたら言えない』
もし、あたしがあの時陽と同じ立場だったとしたら....
あたしもきっと黙っていた。


けど....
『でも、凜の気持ち考えたら黙ってられないよ....』



『例えそれが二人を傷つける道だったとしても?』
陽はあたしを真っ直ぐ見つめた。
陽の言葉は心に重くのしかかった。




『傷ついても....それでも....あの二人はちゃんと分かち合うべきだよ....』
夏樹は凜に伝える義務があるし、
凜には真実を知る権利がある。






『....未遥ならそう言うと思ってた』
陽はそう言って、
あたしを優しく抱き寄せた。



『でも今凜は....龍樹くんと幸せに....けど夏樹は....!』
あたしの目からは、
また涙が溢れ出していた。








『俺は、
死ぬその瞬間まで、
凜のこと
想い続けていると思うから』

夏樹はそう言って笑っていた。







あの日から、
夏樹の気持ちは少しも揺らいでいなかったんだ。




あの、約束通り....




こんなに離れていても、
ずっと凜のことを想っていたんだ。





龍樹くんと付き合ってるって、
知っていても....





『未遥。お前だけが背負う事じゃない』
陽はきつくあたしを抱きしめた。





それでもあたしは、
自分の事のように胸がズキズキ傷んで
止まなかった。




どうすれば....いいんだろ...?